03:この青はいつかはじける



 自主練をする選手のためにと準備したドリンクは、すぐに無くなってしまった。二年生の先輩から場所を教えてもらって、優乃は再度ドリンクの素となる粉を手に取る。水とどのバランスで混ぜるのが一番良いのか、もはや体が熟知していた。手早く混ぜて、スポーツドリンクを入れるスクイズボトルを準備する優乃の後ろで、ドアが開く音がした。
 振り返った優乃と、入ってきた人物の目が合った。
(あ)
 テストで25番のゼッケンをつけていた吊り目の男子だった。彼は優乃を見てちょっと眉を上げた後、口元を緩めた。
「ドリンクってある? オレさっき貰い損ねちゃってさー」
「あ、うん」
 優乃は止めていた作業を再開した。見覚えがあった彼を思い出した。中学のときに試合で見たはずだ。面と向かって話をすると、試合や先程のテストのときと雰囲気が少し違っている。彼の話し方は、不思議と相手に肩肘を張らせない。
「あるよ……ちょっと待ってね」
「了解」
 スクイズボトルの内一つを手に取って、蓋を開ける。
「あ、ちょい待ち!」
 その直後に、背後から制止の声がかけられた。優乃は手を止めて振り返った。
「オレだけのために一本先に作るんじゃ効率悪いっしょ? 急いでるわけじゃねーし、待ってるからいーぜ」
 そう言って、男子は口角を吊り上げた。優乃は少し目を丸くしてから、彼につられるように笑った。
「ありがとう」
「オレの台詞だって」
 けらけら笑って、吊り目の男子は作業する優乃の隣に並んだ。彼はバスケの選手としてはやや小柄な方だが、優乃よりはかなり背が高かった。
「オレ中一のときマネージャー居なかったから、こーいうの自分でやってたんだよなー」
「そうなの? 大変じゃなかった?」
「あー、面倒なときとかテキトーに粉入れてテキトーに作ったら兵器ができたりしたわ」
 思い出したのか少々うんざりした表情で言う彼に、優乃は思わず笑ってしまった。部活中、初日ということもあってクスリとも笑えなかったのに、ものの三分で彼には笑わされてばかりだ。
 スクイズボトルの内一本に、タンクからドリンクを注ぐ。蓋を閉めて、優乃はそれを彼へ差し出した。
「はい」
「おー仕事早え。サンキュー」
 彼は優乃からボトルを受け取った。
 すぐに口をつける彼は、改めて見ると汗だくだった。優乃の脳裏を、テストの時の彼のプレーが過ぎる。
(元々才能もあったんだろうけど、やっぱり上手いのには理由があるんだよね)
 キセキの世代の彼らもそうだった。
 彼らのプレーは才能がなければできない。しかし才能だけでも、到底できない。
「んじゃーそろそろ戻るわ」
「また何かあったら言ってね」
 だからこそ、少しでも近づいて力になりたいと思うのだろう。


前の話 次の話
愛しくなる衝動