桐皇対海常の試合が終わってすぐに、優乃のスマートフォンに電話がかかってきた。まるで選手たちの汗のにおいや息遣いまで伝わってくるコートのすぐ脇で観戦していたかのように、心臓は脈打っている。静かに胸を鎮めながら、通話ボタンをタップした。
「どうだった?」
電話越しでも腹の底へ響くような、低くどっしりとした大坪の声が飛び込んできた。優乃は二軍のメンバーに目礼して、客席の横を出口へと上る。激烈な試合の余韻が溢れて、電話をするには騒がしすぎた。
「98-110です。桐皇が勝ちました」
大坪は通話をスピーカーにしているらしかった。複数人がざわめく気配が伝わってくる。
「98-110か……内容は?」
「黄瀬くんが」
優乃は少し言葉に詰まって、自分でびっくりした。喉の奥が灼けるように熱かった。高速を飛ばす車たちのように、脳裏を映像がよぎっていく。鮮やかな青のユニフォームと、弾丸のように黒いユニフォーム。崩れ落ちてコートに拳を叩きつける黄瀬の姿が蘇って、目頭まで熱くなってきたのを必死に押しとどめた。
「……黄瀬くんが、青峰君のプレースタイルをコピーしました。結果的に、その黄瀬くんを青峰くんが完封しました」
「マジかよ……」
少し遠くから宮地の声が聞こえる。
そのさらに遠くから、ボールがフロアを叩く重たい音が聞こえてきた。一定の感覚で、もう一度。ざわついていた優乃の胸がゆっくりと落ち着いていく。
「三方向から録画してあります。このまま他の試合も録画して帰りますね」
「わかった。ありがとう」
出入口の横の壁に背を預けて画面をタップする優乃の横を、ジャージの軍団が興奮した様子で歩み去っていく。
「凄かったな、海常と桐皇の試合」
「しょっぱなからコレってやばくねェか?」
「やっぱすげえんだな、キセキの世代」
「いやチーム全員だろ。ちゃんと見てたかお前」
「ほんと……すごかったよなあ」
体中を巡っていた熱気を、そっと唇から外へ逃がした。
廊下を色んな人が行き交う。中には報道陣らしき人物もいた。それぞれが思い思いに語る話し声と足音の奔流の只中で、優乃は壁に背を預けた。心臓の音は凪いでいて、頭の中には沸騰の泡が残っている。
ふう、と優乃が天井を見上げると、そこにあったのは壁と同じ灰色のコンクリートでも、経年劣化が目立つ蛍光灯でもなかった。
目尻の垂れた、野良猫のような両目が瞬きする。ブドウ味のチューイングガムのような色の髪がさらっと音を立てて、その耳から零れた。
優乃は目を丸くした。飛び上がってのけぞり、壁に頭をぶつける。
「びっくりした〜。大丈夫〜?」
覗き込むように優乃を見つめていた紫原は、すっくと体勢を正した。ハロウィンの夜みたいな瞳にきらきらと星が零れた。
愛しくなる衝動