44:そうしてあめがふりやがてわたしの頬を濡らす



 きっと、大きく変わったのだ。
 誠凛側のベンチや客席から、歓声の合間にぽろりと落ちる言葉がある。「緑間が変わった」「前までと全然違う」油をぶちまけられたように燃え盛る試合の中だからこそ、渦中の自分を冷静に、カメラマンの位置から眺めている自分がいる。小さな声はよく聞こえていた。
 きっと、高尾や他の選手の、体の隅にいる妙に静かな己へも聞こえたのだろう。一瞬たりとも足の止まらない試合の中で、しかしはっきりと表情は見えている。喜びとも無関心とも違った。町を俯瞰する鷹のような表情をしている。
 変わっていない。きっと、スタメンの彼らはそう思うだろう。
 優乃の考えは少し違っていた。彼女は見ていた。冷たいアイスブルーのラインのユニフォームを、ずっと見ていた。
 ゴールだけを見据えていた真っ直ぐな瞳に、映す世界が変わったのだ。彼の目線の高さを変えたのは高尾であり、秀徳のチームメイトたちであり、そして最高のライバルたちだった。

「104対104で両校引き分け!」
 選手と一緒に礼をする。
 レフェリーの声が、ようやく優乃の緊張を溶かした。「最後ホント……ヒヤッとしたぜ」「こんなに神様に祈ったのは、生まれて初めてでした」隣に座っていた二年生の宮地と話しながら退場の準備をする優乃の耳に、降り出した雨の音が聞こえてきた。
 頭上から、彼らに幾千粒もの拍手の雨が降り注いでいた。体とぶつかった雨粒はあたたかく、芯まで沁み渡っていく。
(きっと、相手が誠凛だったから)
 拍手に見送られて、チーム関係なく肩を叩き合う後ろ姿を見つめる。
 木村と握手を交わす木吉や、宮地に背中を叩かれてつんのめる伊月の表情は、みな明るい。
 夏、誠凛と戦っていなかったら、今の秀徳は存在し得なかった。今日戦う相手が誠凛でなければ、チームの皆の今の表情は見られなかった。
 バスケが大好きで、バスケが楽しくて仕方がない。きっとその気持ちを何より大切にする彼がいるから、皆、思い出すのだろう。


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愛しくなる衝動