「何回見てもこえーわ、アイツ」
朝練の片付けをしている優乃の横に、すっとスクイズボトルが差し出された。
テーピング用の包帯などが入っている箱の中を探る手を一度止めて、優乃は隣を見た。吊り目の男子がにっと笑う。
「高尾くん。ありがとう」
「ついでついで」
軽い調子でひらひら手を振る高尾の髪から汗が滑り落ちた。彼は普段飄々とした様子だが、練習では三年生のレギュラーにさえ負けないような真摯さと気迫を見せる。朝練だろうが手は全く抜かれていなかったし、緑間に張り合う様子を見せるのは一年生では彼ただ一人だった。
「じゃーオレ着替えるわ」
「うん、お疲れ」
高尾から受け取ったスクイズボトルと箱とを抱えて、優乃は彼女も立ち上がる。ちらりと高尾の後ろ姿を見た。
一年生にして一軍入りした高尾は、テストのときに25番のゼッケンを付けていた。
(特にパスさばき。ほんとに絶妙なんだよね)
同じ一年の部員に声を掛けられたそばから笑い出す高尾につい微笑む。優乃は視線を手元へと戻した。早足で倉庫へ向かう。
彼女は朝練は制服のまま参加したので着替えをする手間が無い。しかしその分後片付けがあるので、部員同様に急がないと授業開始に間に合わない。
優乃は体育館内に設けられた倉庫の戸に手を掛けた。戸を引こうとして、手を止めた。
「緑間さあ……」
中から、部員の声が聞こえてきたのだ。
部活が開始されてからまだ数日しか経っていないので誰の声かはわからない。恐らくは、二年生か三年生だろう。
「アイツさあ、いくら何でも自己中すぎじゃね?」
扉越しに聞こえてくる口調には、ありありと反感の色が浮かんでいた。
「キセキの世代がスゲーのはわかる。おれだって中学時代ビデオとかで見てきたし、今だって生で見てるわけだし。けどさあ、だからってなんだよあの態度……!!」
「まあまあ……仕方ないよ」
「何が仕方ないんだよ! お前だってそう思うだろ?」
「うー……まあ……」
呆然と扉の前で佇んでいた優乃は、我に返った。道具箱を抱え直して片手を開け、勢いよく戸を引く。
音に驚いて、中に居た二人が素早くこちらを振り向いた。二軍の二年生二人だ。
「あ、お疲れ様です」
しらじらしいかな。内心で呟きつつ、彼女は眉尻を申し訳なさそうに少し下げた。
「びっくりさせちゃってごめんなさい。かご、落ちそうで……」
「あ、ああ」
二年生たちは慌てて首を横に振った。
「いいよ、そんなん気にしなくて」
「お疲れ」
二年生二人は何事もなかったように優乃の横をすり抜けていく。
優乃は、双眸を伏せた。
愛しくなる衝動