誠凛がウィンターカップ本戦出場を決めた横で、秀徳も王手をかけていた。
「いけいけ秀徳! おせおせ秀徳!」
研究されていようが止められない。高尾から緑間へパスが通る。緑間の膝がぐっと沈み込んだ。時計のカウントが1を刻む。
ブザービーターが決まって112対81。文句なしの秀徳の勝利だった。同時に彼らはその手にウィンターカップへのチケットを掴んだ。
「優乃っち!」
ホールへ出たところで忘れ物に気がついた優乃を、控え室に戻る途中で呼び止める声があった。振り返った優乃の方へ黄瀬が手を振りながら駆けてくる。そのまま彼女の目の前に手が掲げられた。
「ウィンターカップ本戦出場おめでとう!」
「ありがとう!」
一回りは大きい手へと優乃はハイタッチした。
「誠凛も決まったね」
「あっちの試合は見ててスゲー腹が立ったけど、最後ガツンと黒子っちが決めてくれたんで!」
誠凛と霧崎第一の試合前のムードが、互いに今にもその喉笛へ飛び掛からんばかりだったのは知っていた。霧崎第一と戦うにあたり、必ず相手チームに故障選手が出ていたことも秀徳は把握していた。誠凛は彼らをプレーで黙らせたのだ。
これで今年のウィンターカップには、幻の六人目を含むキセキの世代全員が集結することになった。東京開催の特別枠がある今大会が、最初で最後の機会だろう。
「次会うときは、もしかしたら対戦相手かもしれないっスね」
「うん」
見上げる先で、黄瀬の双眸は真っ直ぐに優乃を見ている。その蜂蜜色の瞳を見て、雨の匂いを想うのはきっと優乃ただ一人だろう。
優乃には、黄瀬に伝えたいことがあった。
「戦うときは、お互い本気で、お互いに勝つと思ってぶつかることになる。……だからこそっていうのかな、それと同じ熱量で、黄瀬くんのこと応援してるよ」
黄瀬とはチームが違う。しかし彼は優乃にとって、秀徳の面々と同じ強さの絆を感じる存在だった。全て、黄瀬が歩み寄ってくれたからだ、と優乃は思う。あの雨の夜、彼が重たくのしかかる傘をどけてくれたから、今本気で同じものを好きでいる存在として向き合って話ができる。
それは思っていた以上に、幸福なことなのだ。
「ありがとう」
その声が自分のものでなくて目を瞬く。
黄瀬はへなと眉尻を垂らして、驚くべき透明さで微笑んでいた。蜂蜜色の瞳に浮かんだ光がぎゅっと優乃の胸を締め付ける。
頬を真っ赤にして照れる黄瀬を、優乃は初めて見た。
「ありがとう、優乃っち」
両手が伸ばされる。前に感じたことのあるシトラスにふわりと包まれる。
瞬きの内に離れていった黄色の双眸は、先程までと表情を変えて凛と優乃を見据えていた。
「オレもそう思ってる。心の底から」
「ごめんなさい、お待たせしました!」
走ってきた優乃の手にタオルが下がっている。忘れ物だろう。高尾の隣に彼女が並んだのを見て、大坪は頷いた。学校に備品を戻した後解散だ。
高尾はちらと優乃を見た。優乃は視線にすぐ気がついた。高尾を見上げて、にこっと笑う。
あーあ、と高尾は思った。ただでさえこうなのに、彼女はバスケが大好きで、自分たちと同じ熱量で同じものを目指しているのだ。そのためにできる全てのことに対して、彼女は一切手を抜かないのだ。
「優乃、この後打ち上げ行く? オレと真ちゃんと」
「うん! 行きたい!」
花のかんばせが弾けるように笑う。
思わず、片手で顔を覆った。
愛しくなる衝動