53:あなたが点けた火のなかのひとつ



 緑間がシュートモーションに入った後、ピンポイントでパスを出す。目玉が飛び出る難易度だったが、緑間と高尾の息は合った。ブロックを誰にも許さないシュートへ繋がる一連のプレーは、日に日に精度を増した。
「さっすが真ちゃん。ゴール率どんどん上がってくねえ」
 体育館の壁際に寄って水分補給していた緑間に、タオルを手にした高尾が並んだ。スクイズボトルから口を離して、緑間は鼻を鳴らす。
 自分だけ凄くても、このプレーは成り立たない。試合の流れから緑間の動きを読んでパスを出す方も、どうかしている。
「いやー、ビデオ吐くほど見返した甲斐あったよなー」
「吐いてはないのだよバカめ」
 秀徳の最終兵器といえる一連のプレーを考案した段階から、優乃のサポートは徹底していて的確だった。それを確信していたから、一番最初に声をかけたのだ。
 スポーツドリンクの塩辛い甘ったるさが舌に残る。優乃が小さな背中を丸めて、桃井たち三人にぽつりぽつりと話していたのを思い出す。
(よかったよな、優乃も、真ちゃんも)
 高尾が見ていても、二人のバスケへの献身ぶりはよく似ている。秀徳で彼らが真正面から邂逅を果たしたのは、良かったことだと素直に思った。
 本戦が近づいているから、こうも感傷的になるのだろうか。高尾はひっそりと笑った。
 目を遣ると、丁度優乃がこちらを見た。花のかんばせがふわっと笑む。冬の寒さも、本番の近づく緊迫も、彼女の眼差しの前では霞となって消えてしまう。
 雑務を終えたらしい優乃は、二人の方へと体育館を横切ってきた。
「お疲れさま! 二人ともすごく良い調子だね」
「悪くないペースではあるのだよ。猶予は微塵も無いが」
「そーね。他のキセキ相手に通用しねーと意味ないもんな」
「うーん、あと私にできそうなこと……」
 斜め少し上に視線を持ち上げて、優乃は考え込んでいる。
 高尾はちらと緑間を垣間見た。彼を象徴するような黒縁眼鏡の奥で、モスグリーンの瞳は静かに優乃を見つめている。伊達にチームメイトでいるわけではない。元々、緑間はわかりやすい。その双眸の奥は、高尾にはよく見えた。
 本戦は間近だ。


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愛しくなる衝動