今日は、昼休みの後に空きコマが一つある。
課題が溜まりつつあるという知子ちゃんは、図書館に行くとのことだった。途中まで一緒に行ったのだけれど、前の教室に忘れ物をしたことを思い出して、私は一度取りに戻った。次に授業が入っていなくてよかった。残って勉強したりお喋りしたりしていた人たちに見られて少し恥ずかしかったけれど、授業中だったらもっと困ったことになっているところだ。
忘れ物を持って図書館へ向かう途中、海堂くんに会った。
「あ」
こちらを見た海堂くんは、何人かの男の子と連れ立って歩いていた。この前図書館で起こしてくれた男の子が居た。さらさらした茶髪の男の子や、髪の毛の癖が強い男の子が、こちらを見ている。
「こんにちは」
とりあえず頭を下げる。海堂くんが低くども、と返してくれた。
なんだか奇妙な空気が一瞬場を満たした。
「は?!」
癖毛の男の子が、驚いたように、勢いよく海堂くんを振り返った。その後ろで、図書館で起こしてくれた男の子が何やらスマートフォンを取り出すのが見えた。この間わずか三秒くらいだ。
「えっ知り合い?! どこで?!」
「サークルだ」
「何の?!」
料理サークルだよと答えようとしたら、海堂くんが音が聞こえそうなほど鋭く睨みつけてきた。慌てて口を閉じる。
それを目ざとく見つけた癖毛の男の子が、私の方へ向き直った。
「アンタ何のサークルでこいつと一緒なんスか?!」
「えーっと」
海堂くんにそっと目をやると、視線は突き刺さるくらいに鋭い。「言うな」という大きな文字もはっきり見える。
でも海堂くん、私はこういうのは、発覚が遅くなればなるほど騒がれると思うんだ。
「料理サークルだよ」
「おい!」
私が言った直後に海堂くんが吠えたけれど、それは癖毛の男の子の「ええーっ?!」という叫び声に掻き消された。さらさらした茶髪の男の子は、目を丸くしている。図書館の男の子は、変わらずスマートフォンを弄っていた。
「マムシお前料理とかできたのかよ!」
「お前……」
海堂くんは癖毛の子に答えずに、人を殺せそうな視線で私を睨みつけた。
思わず言葉に詰まる。
「今言われずともいずれバレてたんじゃないか?」
茶髪の男の子が口を開いた。海堂くんはその子を睨みつけて、ぐっと黙り込んだ。男の子にその気はなかったかもしれないけれど、私はそれでだいぶ救われた。
海堂くんには、やっぱり申し訳ないことをしてしまったかな。
「ごめん、海堂くん」
海堂くんは私を見て、視線を逸らした。
「もういい」
落ち着いた声色にほっとする。
そこで私はようやく、四人がそろって肩に大きなバッグを背負っていることに気が付いた。
「これからどこに行くの?」
私は海堂くんに目を向けたけれど、答えたのは癖毛の男の子だった。
「偶然空きコマ被ったからさ、これからテニスしに行くんだよ」
「あ、ラケットバッグだったんだ……海堂くんはずっとテニス部だったんだよね」
「ああ」
「あっそれ俺も! あーあと、こいつら二人もそう。ねえ、アンタ学科何?」
「私は文学部だよ」
「お、日吉と同じじゃん」
「あ」
不意に、スマートフォンを弄っていた黒髪の男の子が小さく声を上げた。
みんなの視線が集まる。
その子は私を見ていた。耳元でピアスが陽光に瞬いている。ぼんやりと、相変わらずお洒落だなあと思った。
「自分、前レポート忘れへんかった?」
「あ、うん」
私は頷いた。
「そうだよ。あと、この前図書館では起こしてくれてありがとう」
「あー……」
男の子は、納得したように小さく声を漏らした。それから私を見て、少し視線を逸らす。
「いや、偶然やから気にせんとき」
「あ」
今度は、茶髪の男の子が声を零した。今度はお洒落な男の子も、スマートフォンではなくそちらに目を向けた。
「なるほど、アンタだったのか」
「たぶんせやな」
茶髪の男の子は私を見て言ったのだけれど、何故かお洒落な男の子が答えた。
よくわからなくてつい首が傾く。癖毛の男の子も同じように首を傾げていたが、そうだ、と言ってその表情を明るくした。
「せっかくだし名前教えてくんない? 同じ学年なんだし、海堂とは同じサークルだしさ」
「食いもんたかりに行くんやろ」
図書館の子がぼそっと呟いた。癖毛の子はあからさまに動揺した。思わず笑ってしまう。
「作るの好きだけどそんなに食べられないから、むしろ貰ってくれると嬉しいよ」
「マジ?!」
癖毛の子がばっとこちらを見た。その目がなんだか輝いているように見える。
素直な人なんだなあ。
「いやー、ほんっと助かる!!」
「お前、今言ったこと後悔するぜ」
茶髪の子がため息を吐いた。海堂くんも何やら渋い顔をしている。海堂くんの方は、先ほどの反応からしてきっと癖毛の子が遊びに来るの嫌なんだろうなあ、となんとなく思った。
「で、名前名前! あ、俺は切原赤也!」
「あ、うん。私は三藤千絢です」
私はぺこりと頭を下げた。癖毛の子もとい切原くんはつられるようにお辞儀をしてくれて、何だか面白い。
他の子の名前も聞きたいなと思っていたら、切原くんが二人にも自己紹介を促してくれた。
「日吉若。文学部だ」
そう言って律儀に頭を下げてくれたのはさらさらした茶髪の子だ。同じ学部で、少し親近感が湧く。背筋がすっと伸びていて、茶髪なのになんだか和風な印象だった。
その斜め後ろに自然と目が向いた。
教室ではレポートを拾ってくれて、図書館では起こしてくれた男の子が、こちらを見ていた。
「……財前光言います」
彼は軽く頭を下げた。ついつられて、私も「よろしくね」と頭を下げる。
そういえば、イントネーションが標準語と違う。なんだか前にも同じようなことを思った気がする。
隣
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