12▼愛なんてどこにあるんだ
「いっそのことガマン大会やれ」
そう言った赤ん坊は、ニット帽を被って、何故か小さな炬燵に入っていた。
円らな真っ黒の瞳がわたし達に向けられている。
わたしの記憶に違いがなければ、この赤ん坊は前にミサイル弾で武を殺そうとしていた。
赤ん坊でよかった。
何かあったとき、やはり弱者は始末しやすい。
沢田くんが、夏に似つかわしくない赤ん坊の格好に激しく文句を言っている。赤ん坊はわたしの方をじっと見つめていた。
部屋に、新しく誰か入ってきた。わたしはそちらを見なかった。沢田くんが何やら騒いでいるのを、遠くに聞く。
赤ん坊の視線は、わたしから外れなかった。
同じように赤ん坊を見つめ返すわたしは、端から見れば恐ろしいほどの無表情だろう。
赤ん坊が、口を開いた。
瞬間、こめかみに冷たくて固い感触を覚えた。
「小僧?!」
「え……ってリボーン!? 何やってんのー?!!」
背後で、武と沢田くんの慌てたような声が聞こえた。
武の声に、状況も忘れてきゅんとする。
赤ん坊は至近距離から、感情を読み取れぬ黒い瞳でわたしを見つめて口を開く。
「オレは、強いぞ」
少し舌足らずな声は、わたしの口角を下げるに十分すぎた。
「……そうなんだ」
外見は赤ん坊だが、ただの弱者ではなさそうだ。内心舌打ちする。
と、赤ん坊の銃を握った小さな手を、大きくて武骨な手のひらがやんわりと押し下げた。
向けられていた銃口が、わたしのこめかみから外れる。
「わりー小僧、ちょっと待ってくれねーか?」
耳元で、愛しい声がした。
背中に、すぐ傍にある体温を感じた。
「マフィアごっこの人質役ならオレがやるからさ」
少し困った表情を滲ませた声が、わたしの胸をきつく縛り上げる。
「美月はやめてくれな」
最早わたしの意識中に、赤ん坊のことなどかけらも存在しなかった。
わたしの名前を、愛しい声が紡ぐ。
わたしのことを、愛しくてたまらないその人が気にかけてくれている。
息が苦しい。
嬉しくて、息がしにくい。視界がぼやけた。
「武……」
音にもならない声が、わたしの唇から意図せず零れ落ちた。
小さく音がして、わたしは赤ん坊と今自分がいる場所とを思い出す。
赤ん坊は、どこかへ銃をしまっていた。
武のおかげで興が削がれたようだった。
大きくて円らな瞳がわたしをじっと見据えた。
「好きなのか?」
赤ん坊の言葉に主語はなかった。けれど彼の視線が一瞬武に向いたのを、わたしはしっかりととらえた。
口元が、緩んでいくのを感じる。
「うん。死ねるくらい、だいすき」
心のままに、わたしは満面の笑顔を浮かべた。
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