13▼やさしいけものはあなたでした
結局問7は、途中から加わった緑中の女の子の父である大学の数学教員の男性と、赤ん坊とが解いた。
補習授業のプリントに大学レベルの問題が載るわけがないので、きっと先生が数値を打ち間違えたのだろう。
帰り道、緑中の女の子が、わたしの横にいる武に何やら言いたそうに視線を向けていた。
わたしは彼女を武に接触させたくなかった。問題を解いている最中に、武が彼女を褒めたからだ。
彼女が何か言う前に、早く家へ帰ってしまいたい。
ものすごく恥ずかしかったけれど、武の左手の指先を軽く握る。自分で触れた体温に、全身の肌が痺れた。
「ん、どーした美月?」
沢田くんや獄寺くんと話をしていた武が、こちらにその瞳を向けた。
上手く言葉が見つからなくて、帰路の方へ武の手をちょっと引く。
早く、そこの女の子の目に武が映らないような場所に行きたい。
武の目を、見上げる。
武はいつものように笑った。沢田くんの方へ、褐色の瞳が消える。
「じゃ、オレと美月はそろそろ帰るぜ」
「あ、うん。また明日!」
「おー、帰れ帰れ野球馬鹿」
「あ」
女の子の唇が動いたのが見えた。
わたしは武の手を強く引いた。
「美月?」
「かえろう」
ちょっとバランスを崩した武の手を、今度はぎゅうっと握って言った。
その場から二三歩離れて、わたしは後ろを振り返る。
「さよなら」
あの場にもう居たくない。武と仲良しの女の子を、増やしたくない。あり得ないとは言い切れない可能性が、怖くてたまらない。
武の手を引いて、わたしは足を早めた。
不意に、手を大きな手のひらに握り返された。
わたしは、思わず立ち止まった。体が、指先まで動かない。
そういえば、今、武と手を繋いでいる。
固まってしまったわたしの隣で、足音が止まった。
「美月」
大好きな声がわたしを呼んだ。
濃厚な黒にちらちらと銀色が鈍く光っている。褐色の瞳に淡く月の光が差していて、息をのんだ。
「なあに?」
今、この人が隣にいることが、奇跡に思えた。
手の中から温もりがすり抜けていく。思わず追いかけようとしたその大きくて温かい手のひらは、わたしの頭の上に置かれた。
「こうやって手繋いで帰んのさ、ガキの頃以来だなー」
わたしはこの人のことが好きすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
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