06▼なんにでもなれるよだってわたしあなたにあいされてる

視線の主は、すぐにわかった。
獄寺くんだった。彼は今朝と全く同じ目で武を睨んで、放課後に校舎裏まで来いと言い捨てて去っていった。
「って言うんだよー! 美月ちゃんどう思う?!」
「ミチルちゃん、愛されてるんだね」
「えっえっ、もう何言ってんのー美月ちゃんっ!」
目の前の茶髪の女の子と適度に話を合わせながら、その光景を視界の端にしっかりとらえる。
武に危害を加えるつもりなの、獄寺くん。
それとも、その友達の、沢田くん?

武が殴られるくらいならわたしが殴られるし、武が蹴られるくらいならわたしが蹴られる。
武のファンクラブとかいう鬱陶しい連中に少し絡まれていたせいで、遅くなってしまった。
武に何かあったら、獄寺くんにその倍苦しんでもらう。
獄寺くんが指定していた校舎裏に近づくにつれて、日常で耳にすることは滅多に無いはずの、銃声や爆発音が聞こえてきた。一瞬、目の前が真っ白になる。
殺される? 武が?
そんな事態は、許さない。
角を曲がったところで、武の姿が見えた。隣に沢田くんがいる。奥に、ダイナマイトを携えた獄寺くんと、見たことのない赤ん坊がロケット弾を構えて立っていた。
殺してやる。脳裏が真っ赤に染まった。
彼らへ駆け出そうとしたわたしは、傍らの校舎の外階段からも、ミサイルランチャーを構えた男が武を狙っているのを見つけた。
わたしは、肩に掛けていた鞄を下ろした。紙の辞書が入っているから、かなり重い。その場で二三回回って、鞄が男の頭へ飛ぶように手を離す。
その後すぐに、階段へ走る。最上階にいたはずだ。頭上で、鈍い音と間抜けな声がした。少し後に、ミサイルランチャーがコンクリートに落ちたような音が響いた。
最上階まで駆け登ったわたしは、傍らのミサイルランチャーを拾って、倒れている男性の上へ乗った。
銃口を、男性へつきつける。彼は目を白黒させていた。
「だれのめいれい?」
銃口をこめかみに押し当てると、男性は真っ青になった。
「あ、あ……!」
「こたえて?」
首を傾げる。
男性の、純粋な日本人では有り得ない綺麗な色の瞳が、わたしを映した。
情けなく嗚咽を上げた後、彼は口を開いた。
「あ、う、美月、さん……っ」
男性は確かに、わたしの名前を言った。
この男は何故、わたしの名前を知っている?
と、わたしの耳に、武の声が聞こえてきた。
わたしは我に返った。唇を噛む。
馬鹿だった。この男より先に、ランチャーだけ奪って武の近くへ行くべきだった。
立ち上がって、階下を見下ろす。
武は無事で、何故か楽しそうに笑って獄寺くんとじゃれていた。
無傷だ。どういうことだろう。
「……武が無事なら、それでいいか」
わたしは踵を返して、手にしていたロケットランチャーを、思い切り振りかぶった。視界の端で、へたりこんだままの男性がひっと声を上げる。
わたしは思い切り、それを校舎の壁へ打ち付けた。
ランチャーに皹が入る。もう一度打ち付けると、完全に壊れた。
それを、涙目で呆然とする男の傍らに放る。
「もう武のこと殺そうとしないでね」
男が頷いたのを見て、わたしはその場を後にする。
後ろでボフンと音がしたけれど、武の部活に行くと言う声が聞こえてきたから、振り返らなかった。


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