07▼在処の真実

沢田くんは、敵なのか、よくわからない。
あれから幾分か経つけれど、沢田くんは特に武を危険な目に合わせようとはしなかった。獄寺くんは武のことが気に食わないみたいだけれど、彼も危害を加えようとはしていない。武が校舎裏に呼び出されていたあのときに、沢田くん達と一緒に居たアフロの男性と、黒いスーツを着た赤ん坊は、あれから姿を見ていない。
武は、沢田くんや獄寺くんと一緒にいて、とても楽しそうだ。
武が彼らと共にいることを望むなら、わたしは一旦様子を見ようか。
また彼らが武に何か害になることをしようとしたら、わたしが全部排除すればいいだけなのだ。
わたしはきつく唇を噛んだ。黒板から手元へと目を落とす。
……寂しいよ、武。
小さい頃はなりふり構わずに、ずっと武と一緒に居た。
大きくなるにつれて、それをしたら武に面倒がかかるとわたしは気づきはじめた。男女が四六時中二人で一緒にいると、同性の友達が寄り付かなくなるようなのだ。わたしはそれでも構わなかったし、むしろ好都合だったけれど、それを理由に武にうとがられてしまったら生きていけない。だから武とわたしがその型にはまってしまう前に、適度に離れる時間を作るようにした。あくまで、わたしと彼が幼馴染であり、他の連中がどんなに足掻いても手に入れられない強い絆がそこには存在することを周りに印象づけられる範囲内でだ。
すごく寂しかった。昔は武の傍にいくらでも居られたのに、下らない大衆の考えなんかのせいでいつも一緒にはいられなくなったのだ。話す時間も、比例して短くなった。最初の頃は耐え難い寂しさが四六時中付きまとった。夜涙が止まらなかった。
それからは武と親しい人が増える度に、胸に穴が空きそうな感情を覚え続けてきた。
中学に上がって新しい環境に慣れ、武の周りもある程度固定されてきた。
そう思っていたところに、彼らは入ってきた。ただでさえ野球部で会えない上にますます武とわたしが居られる時間が減ってしまうと、わたしは感じていた。
わたしより二列横、三個前の席に突っ伏している後ろ姿を見つめて、スカートの裾を握りしめる。
ぼやけかける視界を必死に明瞭なままへ留めた。
武、寂しいよ。

じわじわと、暑さが増し始めていた。
扇風機が回りはじめた図書室から、本を二冊持って教室へ帰る。
席に着く。武の席を見る。まだ朝練から帰ってきていないようだ。空っぽの席に、一瞬息ができなくなった。
「美月はいいわよねー、もう決まってるんだから」
不意に、肩に手が後ろから置かれた。
振り返る。
緩くウェーブのかかった黒髪の女の子が、わたしを見てにやにや笑っている。
誰だっけ。靄がかった脳裏の中にあるはずの、彼女の名前を探す。一致したのは黒川花だった。
思い出す。彼女は、わたしが"特別仲良くしている"友達の一人だ。
他のクラスメイトならまだしも、彼女までわからなくなってしまうのには自分でも驚いた。わたしは今、相当寂しくて仕方ないようだ。
「なあに花、にやにや笑って」
他の女生徒に対するより親しげに、花に問い掛ける。花はわたしの頭をこつんとつついた。
「今日のおにぎりよ。あんたが渡す相手なんて、もう世界中探しても一人だけじゃないの」
わたしは花にそう言われて初めて、今日の家庭科が並中伝統行事の一つであるおにぎり作りだと気がついた。
「……うん」
俯いた。
「あれ、楽しみじゃないの?」
花が、意外そうに言う。
「……わたしが渡すのは武だけだけど、武がもらうのは、わたしだけじゃない、から」
素直に言うと、花が唐突に頭を掻き混ぜるように撫でてきた。
「まったく! 一途ねーほんと。可愛いんだから」
「それは、京子に似合う言葉だよ」
花に可愛いと言われても、意味がない。
武に可愛いと言われないと、そんな言葉に意味はない。
ちらりと見た机と椅子は、まだ空っぽのままだった。


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