君がいること(※if)

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ぽん、と頭に乗せられた手のひらが、温かくて少し汗っかきなのを知っている。
「おめーはここで目ェかっ開いて見とけ。最後までだ」
足はぐちゃぐちゃで使い物にならない。腕は垂れ下がったまま、その手に応えることもできない。根元から折られた角に、何も守ることは許されない。
瞬きで血が滲む視界に、背中だけが映る。内側に暴力的なまでのエネルギーを秘めた、この世界で誰よりも追いかけたくなる背中だった。
「俺は勝つ。勝って……救ける」
ちらりと見えた赤い瞳に、もう爆豪勝己以外の誰も重ねることはなかった。

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骨ばっているし皮も厚いけれど見た目よりも柔らかい手のひらは、触れるととても安心する。
少しでも強さを間違えると切れてしまう硬い手のひらは、触れることがどれほど特別なことなのかを教えてくれる。
硬化した親指にそっと触れる。荒削りの岩石のような硬さだと思う。戦闘のときにはもっと硬くなることを知っている。鹿乃が触れやすいように調節してくれているのだと、すぐにわかる。
指で強さと距離を確かめて、その硬い手のひらへゆっくり、鹿乃は手を重ねる。
「なんか」
丸い瞳がぱちっと瞬かれる。唇が少し照れくさそうに結ばれるのをもう何度も見ている。例えようのない幸せを感じる。
「鹿乃さんと手合わせるとさ、思うっつか」
手のひらの下で、溶けるように硬さがなくなっていく。徐々に鹿乃の手を握る力が強くなる。
「守ることの難しさとか、なんか……尊さみたいな。そういうの」
真っ直ぐに目が合う。真剣な光が輝く。その青年の心をそのまま映しているように、真っ直ぐ誠実な光だ。
鹿乃は手のひらを握り返す。少しびくっとする肩がおかしくて、たまらなく愛おしかった。
何が何でも守り抜かねばならない。真っ直ぐな硬さと柔らかさのその手のひらも、その存在も。
肩にとんと額を預ける。ややあって、背中にそっと手のひらを感じた。

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無かったことにできないことを、その人はよく知っている。
左腕に巻かれた包帯を、優しい手がそっと撫でる。手元へと伏せられた目元に、睫毛の影が落ちている。
きっと思い出している。鹿乃が原点を授かった、その全てのきっかけの一件だ。
鹿乃にとって大切なその思い出は、彼にとって少し違う意味を持つ重大な過去なのだ。
「トラウマみてえになってる……たぶん」
翡翠の色をした綺麗な目が、やっと鹿乃を見た。ぱち、と瞬きの間に表情が少し変わる。
「過去も夢も、簡単に捨てられねえこと、知ってるから。身を以て」
翡翠の瞳は少しの間じっと鹿乃を見つめる。それからすいと、ベッドサイドの机を見た。花瓶に花が活けられて、その前に綺麗に包装された箱がいくつか置かれている。
「……わかるよな。お前はもう、ちゃんと誰かのヒーローだ」
もう一度、翡翠の瞳に自分が映る。とても綺麗だ。
親指が包帯の上から、左腕に残る傷と傷痕とをゆっくりと撫でる。
「……自殺も、命を捨てるような特攻も、もうしないよ」
ぱっと色の違う双眸が見開かれた。
もうずっと思っていたことだったけれど、鹿乃が青年を前に口に出すのは初めてだった。
「私が一番好きなヒーローを、私が悲しませるのは嫌だもの」
ぽん、と優しい手の甲に手のひらを乗せる。
瞳が、綺麗な翡翠の水面みたいに揺れる。目を閉じて、祈るように鹿乃の手のひらに額が宛がわれる。
細く吐かれた息は、微かに震えている。強く、自分の生きたい理由を知る。

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「デクくん、傘は?」
「ここに来る途中、雨宿りしてる子がいて。困った顔してたから」
優しい声と温かい瞳に、痛いほど彼の本質を見る。
霧雨の中、ビニール傘を畳む。
「……何故?!」
「……どうしてだろう?」
少し歪な手のひらは、雨の中でも温かだ。