早起きした日
「緑谷ぁ〜知ってっか? 朝早く起きるとな、イイもんが見られるんだぜ……」峰田くんがかなりゲスい顔をしていたので、あんまり良い予感はしなかった。
でもその日はいやに早く目が覚めちゃって、まだ朝日も見えないような早い時間にそうっと談話室に降りていったんだ。
「……あれ? デクくんだ」
「ぁあ?」
ソファーに並んで座っていたのは、鹿乃さんと、なんとかっちゃんだった。
机の上にはオセロが並んでいる。
なるほどと思った。かっちゃんは頭の回転も速い。こういう遊びもたまにしたくなるんだろう。けど、これで勝負するとなると相手は限られてくる。僕は論外だろうし、轟くんにも絶対頼まないだろう。切島くんや上鳴くん瀬呂くんたちはこういうのやるイメージあんまりないし、この手のゲームにも万能そうな八百万さんとはあんまり喋ってるところを見ない。
その点鹿乃さんは、最近必殺技練習の合間に時々対戦してるのを見る。勿論他のクラスメイトたちにも言えることだけれど、鹿乃さんは強い。かっちゃんに物怖じしない。状況判断力も優れているし、かっちゃんは戦っていて楽しそうに見える。
「おーおーそこに置いていいんか、あ?」
「うん」
「チィッ」
かっちゃんが座ってまともにオセロをやっているのが僕にはちょっと信じられない。けれどきっとこれもかっちゃんの一面なんだろう。僕がここに座って対戦を見ててもあんまり気にされてないのも、ちょっと信じられない。
ぱちぱちと黒と白とがひっくり返ったり入れ替わったりしてる。ちらっと鹿乃さんの顔を見る。とても真剣で、同時に楽しそうだ。
鹿乃さんが楽しそうにしていると、未だにほっとする。彼女が抱いていたのはとても歪な夢だけれど、どんな夢でもきっと、簡単には捨てられないと思うから。
彼女の夢を叶える別の道を、一緒に探したいと言った。それにはきっと、いや絶対に、こういう時間が必要なんだ。意図的なのか無意識なのかわからないけれど、その一端をかっちゃんが担っているのも、なんだか僕は嬉しかった。
「これで逆転、私の勝ち」
「なっ……! っざけんなもう一回だ!」
「聞いてデクくん。爆豪くん、勝ち逃げ許してくれないの」
「勝ってねェだろまだ2試合あんぞコラ」
くすくす笑っている。ああ、よかった。きっと鹿乃さんは、光のさす道にもう足を踏み出している。そんな風に思える表情だった。なんだかくすぐったいし、眩い。
びっくりした。不意にかっちゃんから鋭い視線が飛んできた。ほんとに一瞬だったけど、一体何がどうしたというんだろう。でも、何も言われないから、たぶん変わらず見学はしてていいってことなのかな。
かっちゃん相手にびくびくする癖だって、やっぱりすぐには抜けない。時々出てくる。捨てられない。
鹿乃さんがぱちぱち石を外している。「おせェ」大きな手が並んで石を鷲掴む。
峰田くんが言うから、なんか誤解しちゃったよ。
休み時間、峰田くんに言うと彼はくわっとすごい顔になった。ちなみに鹿乃さんは今職員室だ。
「見たか?!」
「へ?」
「かー! やっぱ教えるんじゃなかった! 鹿乃が一人で庭でトレーニングしてるんだけど汗で下着が浮いててすげぇエロいってのぐはっ」
「死んどけ」
「そういうの、よくねえだろ」
「お前本当にダメだぞそろそろ!」
珍しい方向からも消しゴムやら直接拳やら飛んできて阿鼻叫喚の峰田くんを見て、僕は思う。
よかった。かっちゃん、オセロしててくれてほんとによかった。鹿乃さん今日、白いTシャツ着てた。
「鹿乃がそゆとこちょっと無頓着なのすっかり忘れてたわ……」
「あっ鹿乃! ちょっと、朝の白T禁止ー! 黒、黒とか! 着て!!」
「う、うん……?」----------
原作18巻〜19巻166-168話あたり
