フルスロットル峰田くん

私の背中に乗せることで、機動力のサポートができるかもって。
鹿乃さん発案で、今既に何人か鹿姿の鹿乃さんに乗っている。常闇くんで四人目だ。膝でぐっと鹿乃さんの胴を締めるようにして乗っている。ダークシャドウを操るのに手は必要ないこともあって、舵は角を握った常闇くんの方がとっている。
「ダークシャドウ!」
「あいよ!」
ダークシャドウの攻撃力と鹿乃さんの機動力がぴったりマッチしている。そしてなんといっても、黒マントをはためかせて淡い色の美しい鹿に乗る常闇くんが暗黒の騎士みたいでめちゃくちゃカッコいい。
最後のコンクリートの壁を見事なぎ倒して、常闇くんは鹿乃さんを止めた。マントを翻して飛び降りる。かっこいい……!! 鹿乃さんの姿が脚と角だけ残して人に戻った。
「ヤオモモとの連携もバッチリだったけど、常闇ともめっちゃ決まってたねー!」
酸を出し続ける練習をしながら見ていた芦戸さんが言う。頷く以外になかった。
「めっちゃカッコよかったよ! あの、見てて思ったんだけどこれ後方から攻撃されても鹿乃さんの後ろ脚で反撃できるんじゃないかな!」
「なるほど。その発想は無かったな」
「そしたら、ダークシャドウの死角を私が少しでも補えるね」
「お、いいねー! じゃあ私が後ろから」
「ちょーっと待ったァ!!!」
体育館中に響き渡る大声だった。
ギュウンと凄いスピードで走ってきたのは峰田くんだった。なんか、目が血走ってる。コワい。
と思ったけれどそれは一瞬で、峰田くんは困ったようにしょんぼり肩を落とした。
「鹿乃ー、オイラも考えてたんだ……オイラのグレープラッシュは汎用性は高いけど、でもスピードで追いつけない相手にはどーしても劣っちまう……」
「なるほど……」
確かに、峰田くんの悩みはもっともだ。自分より速い相手には投げたそばから避けられてしまう。峰田くんのもぎもぎには出血しちゃう上限があるし、常に数で力押ししてたらジリ貧だ。
鹿乃さんも思い至ったみたいで、うんうんと頷いている。そうですわね、と真面目な顔の八百万さんの横で、芦戸さんがうーん? と首を傾けている。
峰田くんは自分の手のひらに目を落とした。真剣な声色が続く。
「そこでオイラ思ったんだ。そういう相手は一撃で確実にって。もぎもぎをムチみたいに繋げるアレだよ! でもそれにはどうしても機動力が足んねえ……」
がばっと頭を下げてから、鹿乃さんを見上げた峰田くんの目は、とても真摯だった。
「頼む鹿乃! オイラに力を貸してくれ!」

んー、と悩む芦戸は、オイラのヒーローコスを見て大丈夫だと思ったみたいだ。丸いフォルムが魅力的なオイラのコスなら、鹿乃の背にちょこんと乗ってるだけだ。接する面積は非常に少ない。
そう。全部オイラの計算通り。必死に抑えてるけど内心涎が止まらねえよ!
鹿乃も緑谷も八百万もコロッと騙されやがった。馬鹿な奴らだ。
荒ぶりそうな息をしずめる。あとちょっとだ。あとちょっと。あとちょっと我慢すればいい。
鹿乃が走り出して少しすりゃあ、もう誰もこのオイラ様を止められねえ。
バカなヤツらだ。
走り出しちまえばこっちのもんだ。そう。別に大人しく座ってる必要なんざないのさ。
「それじゃいくよー!」
緑谷の声で鹿乃がぐっと足に力を込めるのが伝わってくる。
何で誰も気づかない? この鹿は鹿乃だ! しかも服は同化しちまってて着てないも同然だ!
つまりこの鹿に触れた感触は直接鹿乃に伝わるってことだ!
「よーい、スタート!」
鹿乃が走り出す。オイラは用意してた台詞を吐くだけだ。
「ウワー風ガ強エー」
あとは前に倒れ込むだけ……いや後ろもいいかもしれない、いやとにかくまずは「はあはあまずはその無防備な背中からぁぁあ」
「へェ」
地を這うような声がした。涎を抑えきれないまま横を向く。BBBと爆発の音。
「そんでェ?」
あまりに凶悪な笑み。目前に爆光が迫る。

「やっぱり爆豪くん速い。悔しい!」
「クソカスなんざ乗せとるからだ、バーカ!」
「峰田くんに悪いことしたな。逃げ切れるようにしないと」
「……テメェもいい加減にしとけよ……!!」
「へ?」

 :

▼おまけ
▼轟ver.
「まずはその魅惑の尻からぁぁあ」
後ろに倒れ込もうとしたオイラが見たのは、聳え立つ厚い氷壁だった。ぶつかるまいと鹿乃が急停止する。当然、オイラの体は宙にぽーんと投げ出される。
「……え?」
ゴオッと音がする。熱い。横を見る。
炎が鼻先にある。

「前方に障害物の可能性考えてなかった」
「氷じゃなくても物出せる個性は割と居んだろ。対策しといた方がいい」
「うん。ありがとう。峰田くんにも伝える」
「……素早い相手の対策が鹿乃いる前提になっちまうのは、よくねえんじゃねェか?」
「そっか。うーん、難しいね」
「……難しいな」


▼切島+全員ver.
ちょっと見てていいか?
そう言って横に並んだ切島くんの表情が、だんだん曇る。そしてサッと青褪めるみたいに変わった。その頃には僕たちも、なんだか変だということに気が付き始めていた。そもそも峰田くん、もぎもぎのムチを手に持ってない、最初から……!!
「……なァやっぱアイツだめだって! 見ろあの顔!!」
「やっぱり! 絶対裏があると思ってたー!」
「峰田くん……!!」
「私が行くわ。私の舌ならまだ届くもの!」

「梅雨ちゃんありがとー!!」
「切島ちゃんも。よく気づいてくれたわ。何もされてなくてよかった」
「鹿乃!! いい?! もうゼッッタイ峰田は乗せちゃダメ!! わかった?!」
「いいこと、ゼッタイですわ!!」
「うん……?」