共同生活

朝起きて見知らぬ天井だと思うことも、洗面所で歯磨きする級友に出会うことも、もうすっかり日常の一部へ溶け込んでいた。
「あともう1個2個くらい欲しいよなあ、必殺技」
「合体技みてーのは? この前やってたじゃん、麗日と鹿乃ちゃんとさ」
「あれな、やれることの幅は広がるし楽しいんだけど、揃ってねーとできないじゃん?」
そんなことを話しながら共有スペースにやってきて、彼らは愕然とした。
「なっ」
「んでこんなとこで寝とンだ」
絨毯の上ですやすやと胸を上下させる鹿乃の隣で、丸まっていた口田の兎が彼らを見上げた。
え、鹿乃ちゃん一晩ここで寝てたのか?!
峰田居なくてよかったー! お腹見えそーじゃん!
ふざけろ。
うへー、爆睡だぞこれ。
各々内心色々な思いが駆けていく。
動いたのは爆豪だった。鹿乃の肩辺りに向かって足を持ち上げた爆豪を、切島が慌てて止めた。
「それはダメだろ!」
「いやほんとに! ダメだからねそれ!」
上鳴が続く。チィッとあまりにも大きな舌打ちをした爆豪に代わり、切島が鹿乃のそばにしゃがんだ。
睫毛長い。ほっぺた柔らかそう。
うっかり考えてしまったものはどうしようもなかった。勝手にどぎまぎしながら、切島は鹿乃の肩にそっと手を乗せた。
うわっ肩細い!
口元を一度ぎゅっと引き締めて、声を掛ける。
「鹿乃ちゃん、起きろ、おーい!」
「温い」
「いやお前の場合熱すぎっから!」
華奢な肩をそっと揺らすと、鹿乃が少し身じろぎした。ん、と落ちる鼻にかかった声にたじたじになる。
ぱっと睫毛が持ち上がって、翠の瞳が切島を見た。
一瞬だった。切島がびくりと体を揺らしたその間に瞼は降りてしまう。それだけではなかった。
「えっ、ちょっ!!」
細い指が切島の腕を掴んだ。瞬間ぐっと引っ張られる。
「ええええ鹿乃ちゃん?!」
「おいまじか!」
「は?」
ぎゅっと片腕を抱き込まれた切島は見事に固まった。
音が出そうなほどぎこちなく首だけで三人を振り返る。汗がだらだら流れる。
「や、やべえ。どうしよう」
直後とても柔らかいものが彼の腕に触れて、切島は完全に停止した。
「……こうすりゃいいだろが!」
半ギレの爆豪は鹿乃の耳元で思い切り爆破を起こした。
鹿乃は飛び起きなかった。今度はゆっくり睫毛が上を向いた。綺麗な瞳が切島を真っ先に映した。
「あ」
*が熱くなるのを抑えられない。片腕が恐ろしくなるほど熱かった。
鹿乃は瞬きした後、信じられないくらいふわっと笑った。
「おはよう」

「じゃねェこのクソが。テメェ共同生活ナメてんのか? あ?」
「爆豪くん。あれ、ここ1階?」
「うわー、なんか今のやばくない? なんか一緒に寝てたみたいじゃない?」
「おーい切島生きてるかー」
「あれ、私……人に戻ってる」
「あー、鹿の維持練習してたのね?」
「うん。あ、ごめんね、腕」
「おーい切島ー?」
「だめだなこりゃ死んでる」
「純情ボーイ切島」
「そのまま死んでろ」