2vs1戦闘訓練

ヒーロー基礎学、戦闘訓練の時間がやってきた。
2対1の偏った人数構成、当然意図がある。2人のヒーロー役は、決められた時間が来た瞬間にヴィランを拘束した状態でいないと勝利と認められない。一方ヴィラン役の1人は制限時間内であれば一度捕まっても逃げてしまえば負けたことにはならない。警察への引き渡しまでを想定した演習みたいだ。
「うーん、人数だけ見たらヴィラン役が不利だけど……」
「必ずしもそうとは言い切れないよね。どっちにとっても相手が誰になるかが難易度を大きく変える気がする」
僕たちが見守る中で、第1戦目の組み合わせが発表される。おお、と声が上がった。
「ヴィラン役は鹿乃さんで」
「ヒーロー役……爆豪くんと切島くんか……!」
やる気十分の様子で悪どく笑うかっちゃんの手が、連続で小さく火花を上げる。両手の拳をゴツゴツ当て合って、切島くんも気合いを入れてる。
1人で彼らに立ち向かうことになる鹿乃さんは、普段と変わらない様子で剥き出しの脚をぐうっと引き寄せてストレッチをしていた。
(ヴィラン役……戸惑ったりしてない)
翠の瞳を見たら、入学当初のあのときと全然違うことはわかった。
「3人は演習場に移動」
エクトプラズム先生の言葉に従って、3人で連れ立って出ていく。「鹿ぶちのめしたる」「おっしゃあ! よろしくな鹿乃ちゃん!」「よろしくね。最後まで、一回だって捕まらないから」
強い光。楽しそうな眼差し。
僕もなんだか、ワクワクしてきた。

 *

「いいか切島ァ! テメェの個性は鹿にとって相性最悪だ。まずてめーは血が出ねえから戦うほどアドバンテージが増えるっつーヤツの個性の長所がブッ潰れる。鹿乃にはほぼ近接しかねェが近接でてめーを抑えるには長期戦で硬化緩むの待つしかねえ。が、それァ今回不可能。俺がいるからだ」
「だから鹿乃はテメェに出くわしたら一撃離脱の一手しかねェ。それさせんな! 死んでも捕まえとけ!」

 *

切島くんの攻撃は、がんがん攻める小細工なしの一直線だ。だから、パターンは掴みやすいし、対策もしやすい。
硬化した腕が繰り出す突きに対して左足を半歩下げ、ぐっと地面を意識する。硬化中、肌は掠めただけですぱっと切られてしまうけれど、左腕の装甲に当ててしまえば関係ない。
一直線の切島くんの攻撃に少しだけ手を添えてその向きを逸らす。切島くんの体重が予期せぬ方向にかかっていくのがわかる。切島くんは体幹を意識せざるを得ない。そこに一瞬隙ができる。
狙うなら、硬化した体に触れ続けても切れないくらい頑丈な、そのコスチュームだ。

角にコスチュームの紐をひっかけられた切島くんがごりごりコンクリートの壁を引きずられて、思い切り投げ飛ばされた。
鹿乃さんは休みなく動く。背後から迫ったかっちゃん相手に角を掲げて突っ込む。頭の大振りはフェイントだった。体重の乗った回し蹴り。その足はいつの間にか、ヘラジカのずしりと来そうな足に変わっていた。見事に決まった。
さすがのかっちゃんにもダメージが入ったっぽい。その隙を鹿乃さんは的確に突く。かっちゃんのヒーローコスの肩と小手の持ち手部分を掴んでぶん投げて、カウンターの爆破を大きく広げた角でガード、その煙に紛れて逃走。かっちゃんの顔が凶悪に笑う。
モニターを見ているみんながざわつくのも、よくわかる。かっちゃんと切島くん、どちらも戦闘力はピカイチだ。その2人相手にこの鮮やかな立ち回り。
改めて思った。鹿乃さんは強い。

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仮免試験後・八斎会編前あたり