原作12巻(102話途中)
きゃーというよりギャーに近い悲鳴が上がった。「鹿乃ーーー?!?! 嘘だーーーー!!!!」
芦戸さんの悲鳴はハイツアライアンス中に響き渡ったと思う。共有スペース中の人間が玄関の方を見た。つまり、クラスのほぼ全員だ。
少しして現れた鹿乃さんの姿に、みんな程度は違えどびっくりした。
「わーー!! 鹿乃ちゃん髪が!!」
「鹿乃さん、え、髪……?!」
「あ、うん」
鹿乃さんは肩の少し上辺りまでになった髪の先に少し触れた。
「今日出掛けたらなんか、ヴィランにね。一部だけ短いのも変だなって思って」
「ヴィランに?!」
よく見たら、鹿乃さんの頬に白い医療用のテープが貼ってある。
「ヴィランにやられたの?! え、どこで?!」
「コンビニだよ。人質だった」
「ええ?!」
「大ごとじゃねーか!」
「マジかよ……! 無事でよかった!!」
「うん」
鹿乃さんの反応は薄い。「ごめん、眠たい……」そのまま女子寮側の階段に向かってしまう。
「ショートも俄然アリだぜ……」
「お前はちょっと黙ってろ」
じゅるりと涎を拭う峰田くんの頭を瀬呂くんが勢いよくはたいた。
鹿乃さん、明らかに元気がなかった。大丈夫かな。
「許せん!」
叫んだのは麗日さんだ。ゴォオと背中に炎を背負ってるみたいに見える。
「鹿乃ちゃん傷モノにするなんて!」
「その言い方もちょっとなんか語弊あるぞ?!」
「え」
翌朝、たまたま早く起きたらエレベーターで轟くんと一緒になった。
そのまま一階の共有スペースに降りて行ったら、鹿乃さんがぼうっとした様子でソファーに座ってた。
冒頭の声は轟くんだ。隣で見事に固まってる。鹿乃さんが僕たちの方を見た。頬の医療用テープは自分で貼り直したのか、ちょっとよれている。
「二人ともおはよう、早いね」
「おはよう」
少し間があって、轟くんが続いた。
「はよ。……どうした、それ」
「あ、うん」
鹿乃さんは頬のテープを指でなぞった。
「昨日ちょっとね。傷はそんなに深くないけど触ると痛いの。だから」
「そっか」
「いやそっちなの?!」
思わず突っ込む。轟くんも鹿乃さんもときどきちょっとずれている。
「そういえば鹿乃さん襲ったヴィランってちゃんと捕まったの?」
「襲った……?」
轟くんの声色が変わる。あれ、なんかこれ語弊がある言い方かもしれない。
「いや、その」
「ちゃんと捕まったよ。失ったものは返ってこないけど、でもおかげで捕らえられたって言ってもらえた」
「……失った……?!」
「髪だよ!! ね! 鹿乃さん!! コンビニ強盗に出くわしたんだって!!」
轟くんの顔色と声がとうとう不穏になったので僕は無理やり割り込んだ。
やっぱり、なんとなく元気がない。
気になるなあ。授業中もつい鹿乃さんの方を見てしまう。鹿乃さんは一番廊下側の前から二番目に座っている。切島くんや芦戸さんも気にしてるみたいだ。そういうの、人一倍気づくタイプだもんなあ。
教室での授業を終えて、今日も今日とて必殺技練習に向かう。そこから夕方までぶっ通しで訓練だ。鹿乃さんは攻撃を受けながら鹿の角を自在に変形させる練習をしてる。いつもより動きにキレがない。なんか本格的に心配だ。
休憩は各自に任されてる。いつもより早めに休憩に歩き出した鹿乃さんの隣に大股で歩み寄った人を見てちょっとびっくりする。この組み合わせは最近割とよく見るけど、タイミングがびっくりだった。
「オイ」
「ん、爆豪くんも休憩?」
筋肉質なかっちゃんの後ろ姿と、すらっとした鹿乃さんの立ち姿は、なんとなく絵になるなって感じる。
「気色悪ィ」
仏頂面でとんでもなく失礼なことを言い出す。イヤホンジャックを鍛えつつええーという顔をしている耳郎さんを見ると、どうもハラハラしながら見守ってるのは僕だけじゃなさそうだった。
「やっぱりそうかな」
前から思ってたけど、鹿乃さんはかっちゃんの粗暴な言動、あんまり気にならないみたいだ。かっちゃんが言ってることの内容の方を見てるんだなあってよく思う。かっちゃんが一緒にいる姿をよく見る一つの理由なんだろうな。
「テメェ昨日何された」
「それがあんまり覚えてないの」
「ハァ?」
「ヴィランの個性で眠らされてたみたい」
ああ、なるほど。
個性を使わずとも純粋な近接戦闘だって強い鹿乃さんがなんで人質になったのか疑問だったけれど、そういうことだったんだ。
「それ」
かっちゃんの声はぶっきらぼうだ。
「持続性だろ」
え?
「やっぱりそうかな」
え?!
「ちょ、ちょい待った!」
二人の会話に割って入ったのは切島くんだった。ァア? と振り返ったかっちゃんはいつも通りの喧嘩腰だ。
切島くんは鹿乃さんをまじまじと見た。首を傾げる鹿乃さんの目は元気がない。
というより、確かに言われてみたらわかる。眠たそうなんだ。
「鹿乃ちゃん、眠い?」
ダメ押しで切島くんが聞いた。
「うん」
鹿乃さんはあっさり頷いて、左手を広げてみせる。
「授業寝ないようにって針ずっと刺してるんだけど、気を抜くとだめそう」
「先生ぇー!!!!」
「バーカ」
切島くんが叫んで、かっちゃんは小さく吐き捨てた。
