原作12巻(102話会場到着後)
「鹿乃ちゃんだ!」「鹿乃さん、知り合い?」
「ううん、知らない人」
尾白くんと鹿乃さんが話してる。
次々挨拶に来る他校。雄英って有名なんだなあと思いながらそちらの方を何気なしに振り返ったら、他校の男子が一人思い切り鹿乃さんに抱きついてた。
「大好き! 会えて嬉しい、恋人になって!」
「へ」
「は?!」
「ええー!!」
咄嗟の反射神経は流石の鹿乃さんだった。びっくりしたのか反射的に足が出たみたいだった。
その男子は身軽な様子で飛び退いて鹿乃さんの蹴りを避けた。それにもビックリだった。
「蹴りキレキレだ! 強いとこもぞくぞくするくらい好きだよ!」
赤くなった目元で、チェシャ猫みたいに笑う。鹿乃さんはほんとに訳がわからない様子だった。全く一方的に知られてたみたいだ。
いや、というかこの男子は誰なんだ?!
「なんだこの公開告白野郎?!」
峰田くんが多くの人の思ってることを代弁した。チェシャ猫の男子が金色の目で峰田くんを見た。
「鹿乃ちゃんの恋人になりに来たんだよ。それ以外のことはどうだっていい」
男の子は再び鹿乃さんに向き合う。ずいっと距離を詰める。鹿乃さんが一歩後退る。金の瞳が愛おしげにとろける。
あまりに唐突の展開に頭がついていかない。でもその目を見たら本気なんだってことはわかった。
「とっても綺麗な目」
今にも鹿乃さんの*に手を伸ばしそうな雰囲気。
「寂しそうな目。心臓がぎゅうってなる……放っておけない。僕がずっとそばにいて守ってあげたい」
それだけ熱く囁いて、チェシャ猫みたいな男子はまた後でね、と颯爽と去っていった。
空気がピリピリしてる。あれだ。あの公開告白マンの後からだ。やめてくれよほんとに。
更衣室でヒーローコスに着替えてるんだけど緊張もあいまって超嫌な感じだ。公開告白マンの姿が見える度にピリピリしてる。なんとなく緑谷も感じてるみたいで、ピリピリしてる元をちらちら見てる。あーやっぱそう? やっぱピリピリしてんのそいつらだよなあ。
着替え終わって更衣室を出る。この人ごみの中でもやっぱ目立ってる。綺麗なんだよな。純粋に。あと今回はもう角も出してるみたいだから余計に目立つ。
で、俺が見つけたってことは告白マンだって当たり前に見つけてるってことだ。鹿乃ちゃんのコスは冷静に見ると生脚出ちゃってるし片方の腕ノースリーブだしそこで敢えてのグローブはめてるしで、かなり露出高いしエロい。もうこれ以上ピリピリすんの嫌なんだけど。
マジで話しかけんのやめてくれないかなーと思ってたら鹿乃ちゃん本人がばっさり言った。
「後でもいい? 集中したいの」
口実とかじゃなくてほんとにそう思ってるんだろう。臆さず相手に言うとこも含めて鹿乃ちゃんだなって思う。相手がどうだからとか、鹿乃ちゃんはそういうことしない。
可愛くお願いされちゃった、とまた余計な一言を残して告白マンは去っていった。
ヒーローに一歩近づく権利が、目に見える形になる。
わからない。でも今は、今踏みしめてる道をゆくままに歩んでみたいという気持ちが強かった。自分の願望のまま歩くなんて絶対許せなかったはずなのに、変だ。ヒーローに近づいているのか遠ざかっているのかは、結局まだわからない。
コスチュームに着替える。私の個性は自分から発動したいと思ったときに、出血箇所という上限がある。同じ箇所から流れる血を見ても意味がないからだ。両方の腕を晒そうかとも思ったけれど、そうなると防御が不安すぎる。
どちらを晒そうか迷って、右腕にした。前は別に、左腕の傷痕を見ても何とも思わなかった。けれど最近はぐらぐらする。体の動きにも知らない間に影響するかもしれないと思うと、あんまり見たくなかった。
三奈が小突いてくる。
「鹿乃鹿乃ー、あの子結構美少年系だったねえ」
「あの子?」
思い当たらなくて首を傾げる。ほんと抜けてるなーもう、と響香に呆れられる。
「なんか笑い方が猫みたいな子! 鹿乃に抱きつこうとした子!」
言われて、そういえばそんなこともあったと思い出す。
でも、体育祭しか知らないはずだ。私は会ったこともないし、私は決勝トーナメントにも残ってないから見たといっても一瞬のはずだった。あんまり深い意味は無いと思う。
「そんなに気にしてない。集中したいから」
二人はそれもそうだと頷いた。
ヒーロー仮免許取得試験。私はどんな気持ちで向き合おう。決めかねたまま、私は会場へ足を踏み入れる。
