原作12巻(103-107話)

「フザけろ。遠足じゃねえんだよ」
「バッカ待て待て!!」
さっさと歩き出した爆豪を追って切島もどっか行っちまおうとしてる。
ええー?! 俺どうしよう! 緑谷たちの方残っとくのも全然アリだけどアイツら2人になるわけじゃん? なんか猪突猛進なとこあるし心配なんだよなァ……。あーダメだオロオロしてたら2人ともめっちゃどっか行っちまおうとしてる!
「上鳴くん!」
ジャケットがくいと引っ張られた。
「一緒に行こう! 乗って、追いかける!」
続いてトンと俺の腕に触れたのは、ふわふわした体だった。前一回乗っけてもらったから、すぐわかった。
「鹿乃ちゃん! マジかすげーありがとう!!」
一つ大きく頷いた鹿乃ちゃんの角を借りてその背に飛び乗る。きれーな色の鹿が、しなやかに走り出した。

「というワケで追いかけてきました」
「ゾロゾロうっとーしい!」
「上鳴! 鹿乃ちゃんも!」
上鳴を載せた鹿乃が2人に追いついた時点で、スタートの合図が鳴った。
「わっごめん鹿乃ちゃんすぐ降り」
「乗ったままでいろやアホ!」
そのままでと言うかの如く鹿乃がぐっと角を構えるのと、爆豪がキレ気味に言うのとは同時だった。
「何で?!」
「無い頭で考えやがれアホ面が!」
「ええー?! ってうわ!」
鹿乃が走り出して、上鳴は大きく仰け反る。鹿の角が向く先には、高速道路の高架の一部のような建物が見える。
まァそこが妥当だろうな。爆豪の手のひらで汗がBBBと軽く音を立てる。
「いたぞ雄英だ!」
狩られる側は趣味じゃねェ。高ェとこから獲物見っけて狩る立場から一方的に蹂躙したる!

高架の足の部分には、上に登れる梯子が設けてあった。上鳴くんを降ろして人の姿に戻る。残したのは角だけだ。鹿の姿では上れないし、コミュニケーションが取りにくい。
「私、先頭上る」
「はァ? テメェ勝手に決めてんじゃねェ、つーか前走ってんなよクソ鹿!」
「ちょ、落ち着けよ! 鹿乃ちゃん、それ何か理由あんだろ?」
「うん」
理由を話さないと爆豪くんもみんなも納得しないだろうなと思ってた。
自分の耳を指す。
私が爆豪くん切島くんの方に上鳴くんと付いてきた理由の一つだ。この三人、戦闘力はクラスでも指折りだけど、決定的に足りないものがある。
「個性柄、耳も鼻もよく利くの、普通の人より」
鹿は五感の中で聴覚と嗅覚が最も発達しているという。
本物の鹿には劣るけど、私の耳と鼻は索敵にも立ち回りにもとても役立ってくれる。
「そーなん?!」
上鳴くんの目が丸くなる。
「すげえ! え、じゃあ鹿乃ちゃん索敵とかもできるってことじゃん! 万能じゃん!」
「すげー助かるな! よっしゃ力合わせてこーぜ!」
二人のきらきらした目がくすぐったい。
「合わせねえよクソが!」
梯子に手を掛けても怒鳴られるだけだったから、そのまま上ることにした。盛大な舌打ちが聞こえた。

もうすぐでてっぺんに着くってときだった。
「ァ゛ア?!」
爆豪が吼えた。鹿乃ちゃんが止まったからだ。上ってる間中イライラしてたみてーだからかなりの迫力だ。自分が先頭じゃねえからだろうな。いつも自分貫き切ってるとこは良い漢気だと思ってる。
けど今はあんま良くねえ。鹿乃ちゃんが止まったっつーことは、上に何かあるわけだ。それもわかってて吼えてんだろうからすげえんだけどよ。
「おかしい」
鹿乃ちゃんの声だ。いつもより早口なのが事態を物語る。
「人が複数いて呼吸も正常。なのに殆ど動いてない。倒れてるにしても変だし、隠れてる感じでもない。一人だけ立っ」
バシッと音がした。
鹿乃ちゃんの声が不自然に途切れた。何があった?! わかんねえ、けどやべえ!
梯子の一本道。避けるとこがねえ!
「チィ!」
上で爆豪が振り返って背後に手をかざしたのが見えた。咄嗟に硬化して、え? え? 何?! とパニックの上鳴に叫ぶ。
「顔伏せとけ上鳴!」
梯子を囲ってたドーム状の窓をブッ壊して、爆豪はそのまま上まで手の爆破の推進力で飛んでいく。パラパラ降ってくる破片を硬化で防いで急いであと少しを上り切る。
鹿乃ちゃんが言った通り、敵は一人だった。けど俺がわかったのはそこまでだった。爆豪に死角から飛んでくる変な物体が見えた。手が出た。
「危ねえ!」
バシッと耳元で音がする。鹿乃ちゃんのときと同じだ。何か気味の悪いモンで視界も何もかも塞がれてく。
「くそっ……離れっこの」
抵抗しても何もならねェ。全く身動き取れなくなって、俺はどういうワケかソイツの手の上に乗っていた。