戦闘スタイルとコスチューム
「うーんなるほど、長距離か……」テレビ前のスペースは人気で、常に誰かが陣取っている。座り心地抜群のソファーに腰掛けて、しかし緑谷は難しい顔をしていた。
その隣の飯田も、さらにその隣の鹿乃も、同じく難しい顔をして考え込んでいる。
「デクくんも飯田くんも近距離だから、その辺なんか*工夫してることあるかなと思ったんよ」
この議題を持ち出したのは、麗日だった。鹿乃が同じく動物の個性を持つ蛙吹と話しているところに加わったのが彼女だったのだ。
「俺の場合は足を活かして長距離から短距離に強引に持ち込む感じだからな……」
飯田がカクッと首を傾け腕を垂直に伸ばす。
「確かに、飯田くんはそうだよね」と緑谷が頷いた。
「鹿乃さんも、今までの戦い方を見てるとその方針に近かったよね?」
「うん」
鹿乃は頷いて続けた。
「それだと勝てない場面が出てきて、択を広げたいなって思ったの。私の個性は一点突破より色々出来ることを活かした方が強くなれると思うから」
「確かにそうね」
「うん。梅雨ちゃんもそうだけど、鹿乃さんもその鹿っていう個性は無限の可能性を秘めてると思うやっぱり動物の個性は知れば知るほど」
「デクくんストップすとーっぷ!」
「因みに鹿乃くんは今まで、長距離相手は具体的にどう対処していたんだ?」
「えっとね……」
鹿乃の頭からにゅっと角が生える。木の枝の成長を早送りするような伸び方は、何回見ても面白い。
伸びた角を指して、鹿乃は頷く飯田や緑谷に何やら話をしている。
「緑谷たち盛り上がってるねえ」
共同スペースにいくつかある机に両腕を伸ばして、芦戸はソファーの方を見守っていた。同じようにソファー組の会話に耳を傾けていた耳郎も上鳴もうんうんと頷く。
「相談してるのは鹿乃っぽいけど、何の話ししてんだろ」
「角出してるしやっぱ個性かね? えー、けど鹿乃ちゃん今の段階であんまし弱点とか無さそうに見えるけどなー」
「長距離の話だな」
頭の後ろで腕を組んだ上鳴の後ろで、ニヒルに笑ったのは峰田だった。飛び上がって驚く上鳴を尻目に、峰田は空いている席に座って偉そうに足を組む。
「見ててわからんのかね? 鹿乃は極端に長距離に打点がねーんだ」
「あー、確かにそうかも」
「ほらな、轟が呼ばれてった。たぶん長距離ある奴に聞いてもらって穴がないか確かめるんだろ」
偉そうにびしっと峰田が指を向ける先で、轟がソファーに座る。呼んだのは緑谷のようで、彼が手振りを加えて何やら話を始めていた。ところどころで律儀に頷きながら、轟が話に加わる。
上鳴がほー、と声を上げた。
「すげー、なんか当たってるっぽい!」
「なんか……ちゃんと頭良いんだ、峰田って」
「もっと言いたまえよ」
鼻息も荒くドヤ顔の峰田に、彼らは今回ばかりは素直に拍手を送った。
と、ソファーの方からどっと笑い声が上がった。普段あまり表情の変わらない轟も、眉尻を下げて口元を緩めている。
「あっちなんかすげー楽しそうだな!」
隣のテーブルから瀬呂が上鳴に声をかけた。奥に見える切島たちの視線もテーブル前の面々に向いているのがわかる。
麗日と鹿乃がとうとうお腹を抱えて苦しそうに笑い出した。なかなか珍しい。蛙吹のケロケロという楽しそうな笑声が聞こえてくる。
「さっきまで真面目な話してたっぽいんだけど」
「天然がごろごろしてっからあのソファー。なんかあったんじゃね?」
「絶対それだ」
ソファーが揺れて体が少し沈んだ。鹿乃は我に返る。
テレビ前は先ほどより静かだった。麗日が鹿乃と入れ替わりで風呂に行き、蛙吹は寝る時間だと部屋に戻った。緑谷と飯田、そして轟はその後も少し居たが、思い思いに部屋に戻っていった。
ソファーの前のテーブルには、大きな紙が広がっている。コスチュームの要望を記入するために、鹿乃が自室から持ってきたものだ。
隣に座った人物は何も言わない。制服のときより長い足を、投げ出すように組んでいる。じっと手元に視線が注がれているのを感じながら、鹿乃は鉛筆で線を引いた。
しばらくの間、鉛筆の走る音だけが静かに空間を彩った。
「これじゃ威力出んわ」
声と共に、腕が伸びてきた。隣の存在が体温でも感じ取れるくらいになる。
線を辿る指は、意外にも少し幼さを残している。
「そうかな」
「マジで物理死んでんな。こーなんだろが」
吐き捨てるような言い方だが、それはただ彼の個性なのだ。奪い取られた鉛筆が荒っぽく動かされるのを、鹿乃は横でじっと眺めた。
「……全然わからない」
「頭に何詰まっとんだテメェ。これで動けんのが意味不明だな」
