焔葬る
「鹿乃は良い子だ。鹿乃のような子こそ、本物のヒーローになれるよ」真っ赤な瞳が笑う。父の深い紫の瞳とも、母の優しい幹の色をした瞳とも違う。血のように赤く炎のように赤い眼は、とてもあたたかく鹿乃だけを見つめていた。
--- 幕 ---
海ともサファイアとも違う。その炎は、純然たる青だった。
ビロードの青に包まれて、汚いものに鮮やかな青の花が開く。照らされた横顔の瞳は鮮やかに炎を映しているのに、どこまでも沈んでいく底なし沼のようだった。
鹿乃は、青年を見上げていた。唇は知らぬ間に開いていた。
横顔の痛々しい焼け爛れた皮膚すらも、とても綺麗に見えた。
汚いものを飲み込んで、青い炎は静かに闇へ溶けていく。ゴミ袋に燃え移った小さな炎は、青年が鹿乃へ目を遣るのを照らしていた。
暗い翠の瞳は、映したものを何処までも飲み込んでいく。
「お前も敵(ヴィラン)か?」
鹿乃が答えるよりも先に、青年は静かに笑って首を振った。
「そんなわけねえか」
爛れて赤黒い皮膚の上で、翡翠の瞳が静かに鹿乃を見る。
鹿乃はへたり込んだまま、ただ青年を見上げていた。瞬きすらできない。訳も分からないまま、全身を強い衝動が叩く。
その目の奥の沼底まで、どこまでも落ちてみたい。
「ここは危ないぜ。俺みたいのが幾らでも居る」
差し出されたのは手のひらだ。手首まで爛れた腕の先で、その角ばった手は大きかった。
警戒して然るべきだった。その手のひらが真っ青に燃えて、男は消し炭になったのだ。鹿乃は目の前で見ていた。
青年の手は、皮が厚くて硬かった。
鹿乃の手を見下ろして、青年は少し可笑しそうに唇を歪めた。
「やっぱ違うな。なんでこんなとこ来ちまったんだか」
手を引かれて立ち上がる。陽光の届かない路地裏を連れ立って歩く。
表通りに出て眩しさに目を瞑った瞬間に、手のひらからかさついた低めの体温は消えてしまった。
それから鹿乃はふと探してしまう。継ぎ接ぎだらけの爛れた皮膚を、恐ろしいほど美しい光をなくした翡翠の瞳を。
