合宿所の一画、小休憩ができるような木の机と椅子とが並べられているところに、ボクたちは集合していた。
越前のことも気になるけれど、問題として深刻なのは三藤さんだ。越前が今どこで何をしているのかは、皆がなんとなくわかっているし、彼には相手に対抗できるテニスの腕がある。
けれど三藤さんについては、全く見当も付かない。先程のシウの一言もあるし、それに昨晩、大会に出るわけでもないのに三藤さんは奴らに狙われている。それがクラックが明確な目的を持って行っていることだとしたら、最悪、攫われている可能性もあった。その上三藤さんには、何かあっても抵抗できる術がない。
そして、気がかりな人物は、もう一人いる。
「三藤さんが、部屋に時計を取りに行くと言ったきり、戻って来ません」
皆の前で樺地くんがそう言った瞬間にラケットを取り落したのは、白石だった。
彼はそのあと、真っ先に部屋に様子を見に行った。部屋がもぬけの殻だとわかってから、彼はボクと試合したときのあの冷静沈着さが嘘のように動揺している。表面上は、誰より慌ててはならない部長の顔を保っているのが白石の部長たる器を表しているけれど、直接試合して本当に冷静な彼をラケットを通して見たボクにはわかる。
今自分が動いてしまえば、少なくとも四天宝寺のメンバーが動くことは止められない。彼はそれをわかっている。
悟られないよう横目に白石を見る。彼は俯き、指は自分を抑えるように片腕をきつく握りしめていた。何より、静かに見える瞳の奥に揺れる光が叫んでいる。
きっと英二やタカさんが戻って越前の消息がわかったらその時点で、彼はここを出るだろう。
ボクはそれを止める気はなかった。
行方不明の一人はうちの生意気でかけがえのないルーキーで、もう一人は素敵な笑顔でボクらを支えてくれている女の子。良き好敵手は必ずここを飛び出すだろうし、ボクらの部長は責任感が強くて仲間思いだ。
ボクの選びたい道はもう、ただ一つだった。
「きっとこうするって、思ってたよ」
ボクも一緒に行く。驚く手塚にそう伝えた後、役者は続々と桟橋に集まった。
「四天宝寺も忘れてもらっちゃ困るで」
「白石」
やっぱり。桟橋をこちらへ歩いてくる彼は、険しい表情を隠さない。
「何を言われようが、泳いででも、俺は行くで」
その目の光は、強くて鋭かった。守る者の目だ、と思った。
とても頼もしい味方を得た。ボクは揺れる水面の先の、不気味なほど赤い夕陽を見据えた。