X+4

「俺様の水上バイクは二人乗りだ。とても全員は乗れねえな」
「お困りですか?」
まるで計ったようなタイミングで、ちょっとイントネーションが違う馴染み深い日本語が聞こえてきた。全員が予期せぬ彼らの登場に、目を丸くして振り返った。
比嘉中の面々は、驚くべきことに、立派なボートに乗ってやってきた。
「おや、皆さん奇遇ですね」
不適な笑みで言う木手に、白石が思わずといった様子で、たぶんこの場にいる全員が不思議に思ったことを突っ込んだ。
「沖縄に帰ったんちゃうんか……?」
木手はふっと微笑を頬に過ぎらせた。彼はそれから、自分たちが乗り越えてきた試練の数々をドラマチックに語り出す。その後ろで、田仁志たちは彼らにしかわからない体験を思い起こして涙していた。よほど過酷だったようだ。
あれ。
木手の座っている運転席の影で、何かが動いた気がした。古ぼけた麻布がそこにあった。たぶん、風に揺れたのだ。救護用のロープでも入っているのだろうけれど、どうも気になった。木手の不服そうな声に、ボクはふっと引き戻される。
長い冒険の末、彼らは今沖縄に帰る旅費を貯めるために、ボートレンタルのバイトで旅費を稼いでいるらしい。
「やったー顔馴染みだから、500ポンドにまけてあげるさー」
「値段上がってるじゃねーか!」
「こっちは特別な荷物を積んでいますからね」
「計算した上での割引サービスさー」
「特別な荷物……?」
また麻布が動いた気がする。確かめる前に、木手がこちらへと身を乗り出した。「さあ、どうしますか」荷物は陰になって見えなくなった。
「ゴチャゴチャうるせえぞ庶民共!」
跡部が夕日に何か翳した。全員思わずそちらを見る。
黄昏色の美しい光に煌めくのは、KEIGO ATOBEの金文字と、漆黒の夜空みたいなカードだった。
比嘉中の面々は飛び上がらん勢いで驚いた。そしてボクらは、人がお金に膝を折る瞬間を目撃した。
「何なりとお申し付けを、ユアハイネス」
「プライド無いんかお前ら」
白石が呆れ切った様子で言う。
あれ?
やっぱりだ。間違いない。今度こそ麻布がびくりと動いた。まさか、生き物でも入っているのだろうか。
気になったけれど、そんなこと気にしていられないのも事実だ。ボクらは順にボートに乗り込んだ。乗るならここしかないっしょ、とばかりにボートの舳先に切原が座った。
「行きますよ」
木手が改めて、舵を取った。腹の底に響くボートのエンジン音が大きくなる。
桟橋で手を振る大石や残った比嘉中の面々は、どんどん小さくなっていった。
「……さてと」
木手は、麻布に目を遣った。やっぱり“特別な荷物”というのは、それのことだったみたいだ。もしかして、中国で虎の子でも捕まえてきてしまったのかな。味方としては、心強いとも不安とも言える。
「もう出てきていいですよ」
麻布は動かなかった。木手は言い募る。
「貴女がそこに居ると、運転しにくいでしょう」
麻布が震えた。観念したみたいだった。
バサッと、思っていたより大きい布が舞い上がった。
夕日が一瞬包み隠される。
ボクは、前に座る白石の目が大きく見開かれていくのを、まるでスローモーションみたいに見た。
「あの……ほんとはここまで付いてくるつもりはなくて……」
くたびれた布をぎゅっと抱く腕は、山吹のジャージを纏っていた。
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