「三藤先輩ほんと可愛いー! この口説き文句大会で優勝したら三藤先輩とデート……三藤先輩とデート……!」
「え、そうなの?」
「時々足をぶらぶらさせてるのがなんか凄くぐっとくるな!」
「白セーラーの天使とは言い得て妙だ。本当に似合ってるなあ」
「白石ー大丈夫かー」
「……アカン可愛い」
「小春ー! いっちゃん可愛いでー!!」
「どっちもアカンですわこれ」
「よかよか」
「白石は逆に三藤と当たらん方が良さそうやな」
▼そして02へ
朋ちゃんは即座にルールまで作り上げてしまった。物凄い行動力だ。
挑戦者はマネージャー係の用意した箱二つからそれぞれクジを引く。それで、場面設定と相手が決まるのだ。相手はジャッジの私たち三人のうち誰かだ。
口説かれている一人は勿論、それ以外の二人も横で見ていて判定する。基準は単純明快で、ときめいたか否か、それだけだ。
「一番手は……おおー! いきなりこの人の登場だー!!」
「ハッ雑魚共はそこで指を咥えて見てな! 俺様がキングたる確かな証をな!」
「氷帝学園中跡部景吾選手ー!」
跡部くんは物凄く綺麗に指を鳴らした。いつもちょっと感動する。肩にマントのようにかかっていたジャージを脱ぎ捨てて、跡部くんはくじを勢いよく引き抜いた。
「華麗に引きました! さてその場面は……"テニスボールを拾ってもらったとき"! そして相手はー……」
「お前だ!」
跡部くんが真っ直ぐに伸ばした指は、私をさしていた。
双眸がこちらを見て不敵に笑う。
「三藤」
「うわっいきなりかよ!」
「俺らの天使がー!」
「アイツいっつも偉そうさー」
「和香ーだめだよー騙されないでー」
「うるせえぞ外野!」
跡部くんが一喝した。机や部員の皆に囲まれて円状になっているジャッジの間に、自信満々の様子で進み出てくる。
私は朋ちゃんから言われたことを思い出した。とにかく素直でいることと、それから臨場感を出すことだ。臨場感を出すって、どうすればいいんだろう。その場面の自分になりきればいいのかな。
跡部くんが前まで来たので、立ち上がる。皆そうだけれど背が高い。右目の下の泣き黒子は、やっぱり存在感があった。
「それではっ! さん、にー、いち、キュー!!」
ボールを拾う場面ということは、私から声をかけた方が良いだろう。
「えーっと、ボール落ちてたよ!」
「凄えな三藤、フツーにやるんだな」
「白セーラーめっちゃ可愛い」
「和香先輩ー! ファイトですー!」
何を言っているかはわからないけれど皆がちょっとざわざわしてくれているから、やりやすい。これで沈黙の中だったら、タスキを投げ捨てて逃げたくなっているかもしれない。
跡部くんはフッと髪をかきあげた。多分、この大会のためじゃなくて自然な仕草なんだと思う。
「この俺様のボールを拾えるなんて、お前は幸運だぜ?」
「ウワー跡部……やってもうたな」
「逆にカッコいいのねー」
「何が欲しい? お前のためなら、何でも礼に贈ってやる!」
パチーン! という指の音が響いた気がした。間近の跡部くんは流石の迫力だった。
素直。素直を忘れないように。それから、臨場感だ。本当にこう言われたら、私はどう思うだろう。
私は跡部くんを見上げる。自分のできる一番の笑顔を浮かべてみせた。
「なんにもいらないよ」
それから、跡部くんに見えるように、ぐっと両手を握った。
「この後も練習、頑張って!」
「……なん、だと……?」
ガシャーン、と跡部くんの後ろで、誰かが轟音を立てて机の群れに倒れ込んだ。
その笑顔は、その台詞は、まさに天使だった。
跡部だけに向けられたはずの太陽の微笑みは、部員全員の脳天を貫いた。
(かっ……かわいい……!)
最前列で部長の背中を真剣に見守っていた鳳の長身が、ふらっと揺らいだ。
周囲が反応するも、遅かった。派手な音を立てて鳳が倒れた。
「長太郎ー!!」
「天使が……天使がいる……」
目を回している鳳を見た部員たちの間に、緊張が走った。
女装したスキンヘッド関西弁の男に、どう見ても自分たちより強そうな海千山千の女監督に挟まれて、三藤和香は部員たちのオアシスだった。誰もがくじの神様に、三藤の名前を祈ったはずだ。
「俺たちはどうやら、とんだ思い違いをしていたみたいだな」
そう言う真田の表情は、真剣そのものだった。柳が頷く。その眼差しは鋭い。
「ああ……三藤和香、危険だ」
「まさに正真正銘の天使、だね」
肩にジャージを羽織って腕を組んだ幸村が締めくくった。
「……いやフツーに可愛すぎてアカンって言えへんのかい」
「どっちにしろ当たるなら三藤がいいよな」
「他があまりに破滅の道過ぎるさー」