みんなが集まっているところに帰ると、目を三角にしたキヨに怒られた。
「ごめんなさい」
素直に頭を下げる。私だけではしゃくなので、蓋も一緒に傾けておいた。物言わぬ青は何か言いたげだったけれど、異議は聞かない。
キヨはちょっとの間口角を下げていたけれど、やがて無理やり曲げられていた弦が戻るみたいににこっと笑った。
「もー、目が離せない子だなあ」
私の額を、長い指がぴんと弾く。キヨはこういう、ちょっと親しみを込めたデコピンがとてもうまい。女の子好きだけど、女の子からも好かれる人柄がこういうところにも出ているなといつも思う。
「はーい、気をつけます」
「よろしい」
偉そうなキヨの頭を、私は目一杯背伸びして軽く叩いておいた。
少しして、ヨーロッパの貴族のようなオーラを纏った人がこちらへやってきた。この人のことは、会場でも雑誌でも、そして実は街中でも、何度も見たことがあった。
キヨがあ、と声を上げた。
「やあ! 跡部くんじゃないか」
「山吹は全員居るんだろうな」
跡部くんの声をこれほど間近で聞くのは初めてだ。キヨや、先程会った白石くんや幸村くんとまた種類の違う綺麗な顔立ちは、近くで見ると、崩れるどころかますます際立つ。右目の下にある泣きぼくろが色っぽい印象まで加えている。迫力のある、日本人離れした見た目だ。
綺麗なアイスブルーの瞳は、威厳を湛えていた。
「うん、全員居るよー」
「マネージャーもちゃんと……」
そこで、跡部くんは私の方を見た。私は、頭を下げた。
彼は、満足げに鼻を鳴らした。
「準備ができ次第、第一コートに集合だ。いいな?」
「りょーかい」
「和香さん」
ジャージの袖を引っ張られた。室町くんだ。
「あの人、なんか貴族みたいだけど殿様っぽいですよね」
「あっ、それ、なんとなくわかる!」
二人して笑っていたら、その跡部くんに睨まれてしまった。
合宿に参加したのは、どれも全国レベルの学校ばかりだ。
私は山吹の列の最後に並んだ。
氷帝の榊監督が、監督代表として前で挨拶を述べている。
こっそり辺りを見回してみる。全国区ともなると、強さが姿勢にも現れている気がする。背筋を伸ばして前を見据える姿は、誰も彼も貫禄があった。
その中で、王者立海大付属の先頭に幸村くんの姿を、関西の雄四天宝寺の先頭に白石くんの姿を見つけて、私は思わず声を上げそうになった。
あの二人は部長だから、こういうときは健太郎みたいに一番前に居るのだ。先ほどと違って、緊張の場だと背中に少し近寄りがたい雰囲気がある。やっぱり、部長だ。うんうん、と私がひとり頷いた丁度そのとき、二人がこちらを振り返った。あまりのタイミングにびっくりする。
二人だけではなかった。選手が全員、こちらを見ている。
私は、首を傾げた。みんなの方を見る。健太郎の顔が真っ青だ。キヨが、あーあとでも言いたげに首を振る。
一番頼りになる、私の前に並んでいたはずの太一ちゃんを見たけれど、そこにはもう誰もいなかった。
「山吹のマネージャー、前に出てきなさい」
榊監督の横には、すでに何人か、この合宿のマネージャー係らしき人が並んでいた。太一ちゃんはそこで私に向かって必死に手招きしていたのだった。
「ごめんなさい!」
大急ぎで前へ向かう。途中、キヨに肩を叩かれた。心なしか、複数の笑い声が私の背中を追ってくる。
恐らく相当赤くなっているだろう顔を、選手の皆さんの方へ向けると、丁度目の前にいた幸村くんと目が合った。
面白そうに笑う幸村くんに、ますます頬が熱い。耳の下の辺りまで火照ってきた。
慌てて目を逸らすと、今度は白石くんと視線がぶつかった。
少し笑っていた白石くんの唇が、動く。
し、か、り、た、の、む、で?
本当にごめんなさい。もう一度勢いよく頭を下げると、彼はなんだか楽しそうに笑っていた。