「ごめんなさい」
自己紹介をして、拍手を貰った私を待ち構えていたのが、健太郎の説教だった。
私は、ロビーのソファに正座している。
今は荷物を自分の部屋に運ぶ時間だ。時折選手が通っていくので、すごく恥ずかしい。
立海の丸井くんと仁王くんは、こっちを見てにやにやしながら通っていった。後から続いた切原くんと青学の桃城くんも、同じくらいにやけていた。元々知っていた選手ではあるけれど、四人の顔と名前は絶対忘れない。
私の隣で、私とは違ってしっかりくつろいでいたキヨが笑った。
「みーなみ、そろそろいいんじゃない? 和香も反省してるんだし」
大きな手が頭にぽん、と乗せられる。
感動してキヨを見上げると、キヨはわかりやすくにやけた。
「あ! とうとう俺に恋してくれた?」
「兄貴!」
「ええー?」
キヨに向かって両手を掲げる。両腕を広げていたキヨは不服そうだけれど、なんだかんだで元気にハイタッチしてくれる。山吹っていいなあ、本当に仲良しだ、と感じる瞬間だ。伝わったのか、キヨもへらっと笑った。
キヨと二人で健太郎の方を見ると、健太郎はますます頭を抱えていた。
「二人とも……だから、俺は和香が心配で」
「おお、三藤さんが怒られとるわあ」
ひょっこり現れてスマートにするりと山吹一色の空間に入ってきたのは、ついさっき知った声だった。ミルクティー色の髪と左手に巻かれた包帯とは強烈で、すぐに目に飛び込んでくる。
「あ、白石くん」
思わず口から出た言葉に、彼はどこかのアイドルかと思うような笑顔を向けてくれた。
「覚えてくれたん? 嬉しいなあ」
言うことまで、なんだかアイドルみたいだ。
「忘れる方が難しいよ!」
私が一方的に衝撃的だっただけだけれど、あんな出会いをしておいて、忘れるわけがない。
私が思い出していることを知ってか知らずか、白石くんは爽やかのお手本みたいな声で笑った。
「確かになあ。落とした蓋拾うなんて出会い、世界中の演劇探したって無さそうや」
「蓋ぁ?」
私の隣で、キヨが素っ頓狂な声を上げた。
健太郎が、再び頭を抱えた。
「和香……お前、その前にも何かやらかしてたのか……」
「え、ええと!」
健太郎にじろーっと見られて、私は視線をさ迷わせた。
「あー、ほら、南、落ち着いてー」
キヨが、苦笑混じりに健太郎に向かって手を上下する。
私は笑っていたのだけれど、健太郎の表情を見ていて、だんだん申し訳なくなってきた。
私は健太郎の役に立ちたい。それがマネージャーの仕事だし、何より、私自身がそうなりたいと思っている。
けれどなんだかんだで、健太郎はいつも心配そうに私を見る。しかも心配をかけてしまうのが、私の意図していないところばかりなので気をつけようがないのだ。せめてこの合宿では、もうこれ以上健太郎の心労を増やすようなことはしたくないけれど、本当にどうやって気をつけたらいいのだろう。
私はこっそりため息を吐いた。ところが、こっそりのはずが視線を感じる。顔を上げると、白石くんが笑っていた。
「南クンは、三藤さんが大切で仕方ないんやなあ」
微笑ましい、とその柔らかい目が言っていた。
何故だか私はその一言が、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
そんな白石くんの言葉に、健太郎が反応した。
健太郎の誠実さがそのまま表れているといつも思う瞳が、私に向けられた。
「そうだぞ。俺は和香が大切だから毎回毎回」
「えっ」
健太郎の言葉に、今度はキヨが反応した。
目を丸くして、なんだか驚いている。今の言葉のどこにそんな要素があるのかわからない。
「えっ、南、和香のこと好きだったの?!」
キヨのとんちんかんな発言に、私は思わず噴き出した。
「その大切じゃなーい!!」
健太郎は、もううんざりだー! とでも言いたげに叫んだ。私はますます笑いが止まらなくなった。
「仲間として!! 大切なの!!」
「あっ、そ、そうなのね〜。紛らわしいなーもう!」
「どこがだよ!」
二人のやりとりを笑って見ていた白石くんが、言った。
「山吹、仲ええなあ」
なんだかちょっと羨ましそうに見える。
白石くんが部長をしているところだから、四天宝寺もかなりいい雰囲気のところなんじゃないだろうか。
私の視線はわかりやすかったみたいで、白石くんは苦笑交じりに話してくれた。
「うちもな、むっちゃ仲ええねん。仲はええんやけど……皆勝手やねん」
「勝手」
「そう、ほんま勝手やねんで? 強い奴見つけるとすぐ試合やりたい言うて駄々こねるゴンタクレとか、放浪癖で部活を突如休む奴とか、ところ構わずいちゃつきはじめるお笑いコンビとかおってなあ」
白石くんの口から次々と語られる部員像に、私は思った。
「白石くん、苦労してるんだね……」
「そうやねん、めっちゃ大変やねん……」
白石くんはがっくりとうなだれた後、あの爽やかな笑顔を浮かべた。
「ま、おかげで俺も好き勝手やらせてもらっとるわ」
口調も表情も、そのときの白石くんの全てが、四天宝寺が心の底から好きなんだ、と語った一言だった。私は思わずにやけてしまう。
今度は、白石くんにも見られていなかったみたいだ。