「いやいや、か弱い婦女子だと侮ってはいけなかったな。失敬、これは私の失敗だ」
先程の奇襲をなんとか防ぐ事は出来たが、おそらく次はない。
相手も次はマジで殺しにかかってくる…筈だ。
「そうだ、申し遅れたな。持ち霊の紹介だけしてしまった…私はボリス=ツェペシュ=ドラキュラ……君達の察する通り、高貴なるヴァンパイアである」
「ど、ドラキュラだって?!」
「何を動揺している!振る舞いこそ吸血鬼の様だが、ドラキュラは架空の物語にしか居ないぞ」
「ていうか、それじゃあシャーマンじゃねぇだろ!」
「……おや、ではそちらのお嬢さんの召喚能力もシャーマンでないと」
「へぇっ?」
葉達が吸血鬼発言の真偽についてごちゃごちゃ騒いでいたら、不思議そうに自称ヴァンパイアのボリスが指摘した。
確かに私の召喚士としての能力は、架空の生き物を呼び寄せると思われがちだけど違うぞ。
この世とあの世みたいな、別次元で存在する異界の奴らを召してるだけだぞ。れっきとしたシャーマン的な奴だぞ!妖精とか精霊も同じカテゴリだぞ!!
「いや、流石に吸血鬼とか悪魔とか実在してたらワンチャンあるけど、多分いないよ。フィクションを作るのは別の分野だと思うぞ」
「じゃあ、あのボリスって奴はただのコスプレ野郎って事かよ」
「確証は出来ねーけど、ホロホロの言う通りコスプレ大好きなシャーマンがオーバーソウルした感じじゃね?」
「なんだぁ、マジモンじゃ無かったのか……思わずビビっちまったぜ。ていうか、そっちのオッサンのほうがドラキュラっぽいよな」
ホロホロがボリスの後ろに居たオッサンを指さす。
確かに出で立ちがそれっぽい。思いっきりキャラ被りしててウケる。
「被ってやんのー!だっせえな!!」
「な、なんて事だ。この私が…貧相な男と同一視されるとは何たる屈辱!!」
「……なんかヤバくないか?お前、やっちまったな」
「お前だってさっき散々藪蚊とかガガンボとか言って煽ってたじゃねーか!!」
「ガガンボは言ってねーよ!」
まぁ同じくらい、いやそれ以上に貶しまくったから今更なんだけど。
割と一連の馬鹿にした態度が相当キたらしく、ボリスは何を思ったのか把持していたサーベルで仲間のドラキュラに似たオッサンをぶっ刺した。
「……は?」
状況が理解できない。なんでこいつ仲間刺してんだよ。
コイツ、頭ん中まで狂ってんのか。
ハオの手下達もこの男の突飛な行動に、私達と同じように動揺している。
ボリスは貫いた剣をゆっくりと引き抜いた。刺された仲間は痛みのショックで気絶したのだろうか、静かにその場に崩れ落ちた。
絶句。何も言葉が出ない。多分今のコイツに何言っても通じないし、怒りの燃料にしかならん。
静かに臨戦態勢に入ろうとしたその時、少し離れた所で悲鳴が聞こえた。そうだ、ここは観光地だった。血を流して倒れた男が居れば誰だって観光お気楽気分から一転、ブルって叫ぶ。
それが引き金になり、瞬く間に騒がしさが増す。何も知らない一般人からすれば異常な光景だ……いや、私らからしても十分おかしい事なんだけど。
「おい、ボリス。ここが何処が忘れたか!……全くハオ様の理想の妨げになる事をするのは感心せんな」
「……心配はご無用。直ぐに静かにさせる」
コウモリの羽根のような、禍々しい見た目の羽を広げたボリスは気を失ったオッサンをその羽先についた棘で突き刺す。
枯れた土が水を吸い込むみたいに体液を吸っているのだろうか、一瞬にして体が崩れあろう事か砂状にさらさらと散り去った。
気が触れている吸血鬼の一連の行動に、いよいよ頭が痛くなってくる。
これが悪い夢なら良いのに。こんなキマった野郎とこうして対峙すらしたくない。
「あぁ、さようなら。君はこうして土に還る、そして私のアイデンティティも守られた……さぁ次に私の餌食となりたいものは誰だい」