「……汚された。私のこの顔が」
「だったら何だよこのウットリ野郎」
顔を殴られたボリスは、蹲りながら顔を抑え竜を睨みつける。
言動からしてかなりのナルシストそうだから、顔の攻撃は色々とダメージを食らっただろう。ざまあみろ!
竜の実力はちょっと位しか戦った事がないので全開の状態がまだ分からない。が、今の闘志に燃える彼なら、なんだかすごーくコテンパンにしてくれそうな気がする。
「お前らはすっこんでろよ。ここは俺が、タイマンでぶっ潰す!」
「ゆ…許せん…貴様は、貴様はこれ以上の屈辱で!!嬲り殺してやろう!!!」
顔から血を流し、嫌悪の表情で立ち上がったかと思えば忽ち反撃の為竜の背後へ立ち回った……かと思えば彼はボリスの動きが読めているのか、涼しい顔で再度アイツの顔面に裏拳を打ち込んだ。
「そんなに顔がいいなら何発だってくれてやる。お前の『ウツクシイ』顔面が綺麗に腫れ上がる位にやってやるよ」
「こ、殺す……貴様、煮えくり返ったこの感情が治まるまで…無惨に殺す!!」
「あぁそうかよ。俺ぁふんばりヶ丘で1番のワルと言われた男!喧嘩上等、木刀だけが能じゃねぇんだよ」
一転攻勢。まさにこの一言に限る。
あまりにも一方的な闘い過ぎて呆然と私達が立ち尽くす間、彼は何度敵にダメージを与えたんだ。
ボリスも竜の事を酷く見くびっていた様で、予想外のマジな強さに反撃の一手が出せずにいるように見えた。
「オイオイオイオイ、どうしたんだよテメー。あのビックマウスは何だったんだよ。まだ終わらねぇぞ……蜥蜴郎。行くぜ」
右手に持つ木刀に、竜の持ち霊が宿り出す。
初めて見る、竜のOS……すっげえよ。マジでアイツ……こんなに強いんだな。
流れる様な仕草で髪を整え、いかしたリーゼントをキメて竜はボリスにどぎつい一撃を放った。
「り、竜のおっさんあんなに強かったか?」
「うちのじいちゃんに弟子入りして以来、リリカの奇襲と蓮の家以外まともに戦ってなかったからな……そういえば」
「……薄気味悪いOSだな。人間霊が精霊クラスに上がりより一層神に近い存在となると斯様な見た目になるのか」
「は?精霊クラス?」
「何も知らんのだな。貧弱な人間霊も長きに渡り存在することで純粋な魂の姿へと変貌するのだ」
「……だけど彼の持ち霊は精霊などと言ったものではなく、妖怪じみた魂だ。無知で哀れな諸君」
さっきの竜の一撃は何だったのか。
ケロッとしたムカつくあの顔で、ボリスはあの仲間を尊厳もクソもなく葬った大翼を広げ優雅に宙を舞い、何かを生み出し始めた。
「……はぁ?!?アイツの羽から、蝙蝠が出てきた!!!」
「薄気味悪いのはどっちの方だ…クソっ、性に合わんが一つ一つちまちまと潰さねば奴は倒せん!!」
「げっ、血を吸ってきやがったコイツ!気持ち悪ぃんだよ!!」
羽の飛膜が解け、ユスリカよろしく大量の蝙蝠が辺り一面を飛び交う。
趣味の悪い格好だの翼の形状したOSだの蝙蝠だの……まんま吸血鬼じゃないか!
まず、敵の標的になったのはあれだけコケにした竜からだった。群れとなり襲うコバエみたいな奴らを竜は片っ端から叩き切った……が、トマトみたいに潰れた蝙蝠が分裂して数が増えたではないか。
プラナリアかな?にしても、本っ当ボリスとかいうクソ野郎の性格が良く出たOSだな全く。陰湿っていうか、しつこいんだよ。
「竜!大丈夫か!!!」
「おっと、葉様は大人しくして頂かないと困りますな」
「ぐえっ!な、何だぁ!?!」
「り、リゼルグ……!?何してんのアンタ!!」
不敵な笑みを浮かべヤッコさんは糸で操るような仕草をしたかと思えば、突如助けに駆け寄ろうとする葉をリゼルグが取り押さえた。
制止させようと引き剥がそうと引っ張ろうともビクともしない。こいつ、なんかおかしい!
「おい!!やめろって!聞いてんのか!!」
「何を言っても無駄だよ、お嬢さん。聞いたことはないかね?吸血鬼に噛まれた者は吸血鬼に成り果てる……と」
「……そーゆー所まで完全再現してんのかよ」
「再現?違うね。私は本当のヴァンパイア。贋作ではないのだよ」
放った蝙蝠が再びボリスの背翼へと戻る。
……さっきと比べて、随分大きな羽になってやがるぞ!
吸血によって力を増幅したって訳か。チートみたいな能力しやがって。クソッタレ!
『……む、無理だ』
「は?」
『こんなバケモンとやってられっかよ!フザケンナ今畜生!!』
「逃げた!!蜥蜴郎が逃げた!!」
「野郎!最低だぞ!!」
「……耐え難き恐怖に主を捨て逃げ出す、か。あぁ、許せん。許せんな!!所詮は人間だった魂!やはり人間は醜い!そして憎い!!ハオ様の信念、そして私の思想!貴様等のような下賎なさもしき者共は滅ぼさねばならない!!」
ボリスの怒る心を表すように、羽先がどんどん鋭く槍状に変化する。
これじゃあ防いでも致命傷レベルでやばい。死ぬ。
ガチで殺しに来た輩と対峙するのはこれ程までに怖いのか。あークソっ、すごい癪だけど逃げた蜥蜴郎の気持ちがちょっとだけわかる気がする。癪だけどな!!!
「……ボリスはいよいよ本気だ、どうするリーダー」
「ああなったら最早奴は我々の手にも負えん。私達だけで先に進むとしよう」
「先?!どういう事だよ」
「御安心下さい葉様。万一彼に負けようとも我らのいずれかと戦うことになりますから、葉様のみでいらした方が得策ですよ。このパッチ村に続く道へ…ね」
なんてこった。自分らは手に負えんからと先に行きやがった。
ボリスとの戦闘で壊された立ち入り禁止の看板の向こうへ、そそくさと消えるハオの手下を釈然としない気持ちで見つめるのはなんて悔しいんだろう。
とっととあのファッション吸血鬼野郎を倒さねば、パッチ村すらたどり着きやしない。
相手はいよいよ本気だ。多分、油断どころかヘタしたら皆殺しだろう。
……本腰入れてやるしかない。いや、やらないと私の夢を叶えることが出来ない。
「アイツらを追いかけるならまだ問題ねぇな。あと10分で片がつくぜ……俺は仲間を殺したおめえが絶対に許せねぇ」
「何を今更。瀕死の状態で何が出来ると」
「出来るに決まってるだろうが。お前が人間なら尚更な。分かるんだよ、お前は俺と同じ匂いがする……他人に忌み嫌われ、居場所も何もかもなくした人間の悲しみの匂いがすんだよォ!!」
『あぁ、間違いねぇ。コイツのマントみてぇな羽は血だ。OSで血を固めて飛んだり攻撃してんだなァ…面白ぇ手品を考えやがる』
「と、蜥蜴郎!!」
「貴様……!逃げたフリをしたな!」
「知らなかったか?こいつぁすんげぇワルい盗賊だってな。奇襲やカマかけは大の得意だ」
『ダマシは得意中の得意だぜ。へへヘッ』
「行くぜウットリ野郎。オレには!てめえを倒す術がある!!」