人間を駆逐する。
人間でありながら自らを吸血鬼と謳うボリスは悲痛な生い立ちや家系のしがらみを語り、自身がどれ程までに人が憎いとか、ハオによって私達先祖の報いがー!とか心中を声高らからに叫んだと同時に、周囲で野次馬をしていた観光客を例の羽根を大きく拡げ、次々と刺し殺していった。
「……お、お前…やりやがった…」
「串刺しの刑。愚民共の血で出来たこの赤い串で貴様らを地へ磔刑としようではないか。おっと、動くとあの少年の首へ太刀が突き刺さるので…お気をつけて」
いつの間にかボリスの持ち霊によって操られたリゼルグは、葉の腰に携えた刀を抜刀し自らの首に突きつけていた。動くとリゼルグは死ぬ。しかし動かないと私らが死ぬ。
何も関係の無い、只の人達の血液を吸い取り凝縮させた禍々しく血なまぐさい針状のつららが私らを狙い宙に浮く。
もう、何も思えやしない。
悲痛な過去を持ってしてもこんな事、あってたまるか。戦争だって非戦闘員は攻撃しちゃならんのだぞ。それなのにこいつは私怨で、このほんの少しの間にどれだけの人を殺めた?
「……あーあ。もうお前ねーわ。マジでねーわ」
「お嬢さん、最期の遺言位はもう少し丁寧に、そして確りと述べるべきだ。フフ。この剣が垂直に振り下ろされた時、貴様らは死ぬ」
「…………ふぅ、こいつが変なタイプのシャーマンじゃなくて良かったぞ。大丈夫。だからオイラ達はなんとかやっていけるんよ」
このムカつく野郎をどうぶっ殺すか考えていたら、葉のいつも通りの緩い言葉が聞こえた。
大丈夫?何が?これ全然大丈夫じゃねぇ場面だろ。
何を企んでるんだと振り返った時、『アイツ』と目が合った。
……全く、葉は凄いな。この戦いで色々と起こりすぎて、若干バグってきた私より随分と肝が座ってる。
葉の言葉の意味がよーく分かり、これで懸案事項はたった1つになった。
そうとなればあとは簡単。イキリ散らすコバエをぶちのめすのみ。
「何をほざくか!!私をこれ以上怒らせない方がいい!!!喰らえ、『串刺しの刑』だ!!」
わはは、奴さんまだ葉の賢策を見抜いてないな。
もうこんな悪趣味なつらら、怖くもなんともないね。
さあ行こう、私の眷族達。反撃の狼煙を今上げよう!!
「なーにが串刺しの刑だよ。馬鹿。てめーもうちょい冷静になって考えろ…ま、人に言えた義理じゃないけど」
「おうおう、こんなくそヒョロい棒切れなんざアイスの棒にもなりゃしねぇ。俺の氷柱の方が頑丈で強いんだよ」
ホロホロのOSで具現化した氷塊の拳がバキバキと降り注ぐ血串を壊砕し、私の召喚した使い魔も自身の怒りに比例するように怒り狂い喰い壊す。
大暴れしてやる。それでそのまんまボリスをぶん殴ってやる。そうでもしないと腹の虫が収まらないね!
「甘いな二人共。砕くとは二度としない再生出来ぬほど分解するということだ。行くぞ馬孫!!」
掩月刀を大きく振りかざし言葉通り木っ端微塵に切り刻む。大荒れの乱戦状態だ。ヘタしたらこっちまで攻撃されそうな勢いで皆暴れ回ってる。
爽快な気分だ。もうずーっと突っ立って何も出来ない状態だったもんで皆鬱憤が溜まってたんだ。竜だけオイシイ思いはさせねーからな。
「な、何故だ!!動けばあの少年の命は無いのだぞ!クソっ、見くびっているのか……!ブラムロ、躊躇することなど無い。やってしまえ」
「…………」
私達が反撃するとは思いもせず、非常に焦りながらボリスは葉達の方へ目線をやる。
が、リゼルグに取り憑くブラムロは指一本動かさない。まだ葉の言葉が分かってなかったのかコイツ。
怒りや敵意は判断力を鈍らせるという良い反面教師をしてくれて本当に感謝する。私もこれから気をつけないとなぁ。馬鹿野郎。
「なっ、何故だ!!何故だ何故だ!!!貴様ら、何をした!?!」
「なぁに、ちょっとした事だよ。な?阿弥陀丸」
『左様。拙者がブラムロ殿に先程から説得に試みていたのでござるよ。なんとか間に合って良かった良かった』
「せ、説得……?!馬鹿な、彼は従順な持ち霊となるべく徹底的に調教を施したはず」
「あぁ、そうらしいな。けどよオイラ悪い魂とか、力で言う事聞かせた魂でも結局本質は変えらんねぇと思っとるんよ。だからこうしてブラムロは自我を取り戻した」
策士の不敵な笑みと共に、リゼルグは手に持っていた太刀を落とし糸が切れた人形の様にその場に倒れる。
その瞬間、ゆっくりと彼に取り憑いてたボリスの持ち霊が抜けていく。初見で紹介された姿とは打って変わって、身体中に張り巡らされた拘束具が無くなり強い意志を伺える真っ直ぐな瞳の青年に戻っていた。
「さぁて、これで何も打つ手が無くなったわけだが…蜥蜴郎、どうするよ」
『聞くまでもねぇ、やっちまおうぜ』
「……だ、そうだ。覚悟はいいか?ボリスさんよォ」
「ま、待て!!やめろ!!」
「いいや、限界だ。倒すね」
より強力なOSを宿し、蜥蜴郎は神話に出てくるような八岐大蛇みたいな姿を現した。
すごい巫力だ。鳥肌が立つくらい強靭な力を木刀に込め猛烈な勢いで竜は敵へと間合いを詰める。
「いくぜ…ボリス!こいつが俺達の編み出したメラ強ぇOS……ヤマタノオロチを纏う天叢雲だァ!!」
たった一振。竜が全てをボリスにぶち込んだ。
ろくな防御もできず全てを真っ向から受けた敵は、力なくそのまま崖へとぶち当たり、巫力も切れたのか変なOSも解けた。