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「あーあ。空気悪い」

パッチの村へと続く道はとても薄暗く、廃墟となった遺跡を縫うように歩いて行った。
道中、ちょっとしたハプニングによって現在は少し開けた広場で一休みしているけど。

竜に再起不能にまで打ちのめされたボリスはあの後、竜と蜥蜴郎、そして葉によって閉ざされた心を開こうとしていた。が、予想外の一団の介入によってそれは叶わず、ボリスは跡形もなく消え去った。まるでそれは彼が仲間や周囲にいた一般人にした事が返ってきたように、消えた。

X-LAWS。そいつらはどうやらまたしてもハオに関連する連中らしく、ハオやその身内なら否が応でも葬り去るトンデモサイコ集団。そいつらのリーダー格の眼鏡がボリスを殲滅した。

正義と謳って敵をぶち殺すのは余りにも独善的過ぎやしないか。いけ好かない野郎だっただけど、ボリスは最期、対話に臨もうとしてた。それを見ていたから尚更この白装束をユニフォームとした彼らの死体蹴りぶりに引いた。

変に陶酔した集団に若干の拒否反応を示してしまう。ああいうカルトじみた雰囲気はどうも実家に似てて嫌になる、が仕方無いので彼らの言う通り暫く行動を共にすることになった。

が、またしても現れたハオの刺客にコイツらはまたまたやりすぎオーバーキルを発揮した。
天使の名を冠した持ち霊を各々使役し、図体のでかいアメフト野郎をボッコボコにした。
死の裁きを受けろだとか、やり方がなんかモヤモヤする。正義に燃えるのはとても良いし、思想とかそいつらなりの気持ちは否定したり抑圧するのは良くない。けれど私は無理だ。受け入れられない、なんか気持ち悪い。

が、どうやら私らの一人を除いて皆気に食わなかったらしく、特に葉が珍しく相手さん方のやり方にキレた。
葉の持っていた春雨と(あの刀、春雨って言うらしい。知らなかった)引き換えに、X-LAWSとの肩が凝る同行を終えた。
それが、さっきまでの話。

「……大丈夫か?ここ、洞窟だし空気こもるもんなぁ」
「いや、そうじゃない。色々あってなんか気分が悪くなったんだよ」
「あー、そういう事か」

さっきの怒りモードはどこへやら。葉はアイツらと別れた途端いつものゆるゆるマイペース人間に戻ってやがる。
流石に喧嘩売った時は肝が冷えたぞ。もう二度とやって欲しくない。

『拙者も非常に遺憾というか、言い表しがたい気持ちで一杯でござる…』
「だから、それはすまんと言ってるだろ…」
『葉殿が春雨を折ったのはこれで二回目』
「ウェッヘッヘ、まぁ折れちまったものはしょうがねぇよ!」
「いや駄目だろ」
「リリカの言う通りだぜ。これからパッチの村ってのに媒介がないとやべーだろ」

ゆるーい。緩過ぎ。阿弥陀丸泣いてるよ。私初めて見たよ。
てか葉、この刀へし折る常習犯になりかけてんのか。
根元近い部分からパッキリやっちゃってるのでこれじゃ只のなまくら刀だ。媒介にすらならんでしょこれ。

「町に戻るにしても大変だなぁ…どうするよ、蓮」
「俺に何故聞く!!」
『あぁ、坊っちゃま。怒りは心身に悪いですよ』
「しっかりここには軽傷数人、そして重症のハオの手下が一人……その上葉のダンナの刀もある。どうしたもんか…」
「言っておくがオレはこれ以上時間を無駄にするつもりは無い。町に戻るのは気が進まんな」

確かにそうだ。幸い私の腕の怪我も適当に処理すりゃあとはパッチの村で診てもらえば何とかなりそうだ。ただ、例の葉が助けたハオの手下はX-LAWSによって虫の息。早い事何とかしないと死ぬかもしれない。
そして刀の事もある。また刺客が現れたり、トラブルが起きたら大変だ。何より今現段階じゃいつシャーマンファイトの本戦が開催されるか分からない以上、早い事修理できる所を見つけないとマズいと思う。

「…ボクも町に戻るのは嫌だよ。パッチの村は近いって言ってたじゃないか、これからどんな試練があるかも分からないのにこんな所で引き返す余裕なんてホントにあるのかな?」
「リゼルグ…」
「ボクはハオを倒すためにここまで来た。それなのに、なぜ葉君は手下を媒介と引き換えに助けるんだ」
「おいおい、おめぇまだそんな事言ってんのか?ダメだぞ!」
「竜、クネクネすんな気持ち悪い。こいつはこいつなりの考えがあるんだろ。そんで、葉も葉なりの考えがある。あんま強制してやんな。言わせておけばいいんだよ、ただ場の空気ぶち壊すのは嫌だしお前の気持ちは分かるけどさぁ」
「き、気持ち悪い……!?」

竜は好きな事に関するとすぐこれだ。ガタイのいい男が変な動きをするのは見苦しいぞ!
好きなのは第三者からみても分かってるから、もう少し表現を変えてくれ。頼む。

「そういや、ホロホロ。こいつの様子はどうだ?」

リゼルグの言葉にはノーコメントで葉は持ち霊のコロロを使い敵の怪我を治すホロホロに容態を問う。
業火に焼かれたようなひどい火傷だ。一生懸命ふうふうと冷気を吹きかける小さな精霊はとても献身的見える。
一応私も軽い処置をしてみたが、学校で習う程度の怪我の対処に過ぎない。一刻も早く専門のその筋の人間に診てもらわねばいけない状態だと思う。

「駄目だ。コロロでもこれじゃあなぁ…とっとと病院に担ぎ込まないと難しいぜ」
「…うーん、困ったな。これから町に戻るとなると大変だぞ」
「当たり前だ。オレ達には町に戻る足もなく、そしてここへの入り口では今頃大騒ぎに違いない。本戦には間に合うことは到底不可能に近くなる」
「しゃあねえ、行くしかないか」
「は?」
「うん?どうしたんだよ。リリカ。こうなりゃ行くしかないだろ!多分パッチの村なら鍛冶屋でもいると思うし、この春雨も何とかなるなる!多分!」
「た、多分って…」
「するとダンナ、こいつはどうするんです?」
「んー……担いで行くしかねぇか!!」

ま、ま、マジか!!マジかよ!!
ヘラヘラと笑いながら「早速向かう準備をするぞー」とか言う葉に何も言えなかった。
本当、この子はマイペースだなぁ。まぁそれがいいところなんだけど。
怒ったかと思えばコロッとこのいつものペースだ。
……まぁ仕方ない。リーダーの一言で動くのがチームだ。
時たま意見がぶつかろうが結局葉のまったりムードで絆され丸く収まるのは、彼の長所なんだろうな。

ま、このままほっといて死なれると夢見も悪いし、連れていくのは仕方ないか。
……しっかし、こいつかなり鍛え上げた大男だ。何人かで協力して目的地まで運ぶとしよう。

あー、さっきの変な空気なんでどうでも良くなってきた。
ほんとにこの子は不思議な奴だ。全く、面白い奴だな。