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すぐ近くの選手宿舎に戻るだけでも、体感としてはとても長く感じた。
やっとの思いで帰ってきたと思ったら、表の方に人影が見える。さっきの酷い出会いがトラウマになってしまっているのか、人が居ると身構えてしまう。
乗っていた獣を戻し、そっと近寄ると小さな人影の人物が見知った彼だと分かった。

「……あ、」
「り、リゼルグ……お前、居たのか」

嬉しい出会いなんだろうが、今の私には喜びを感じる余裕は無い。
ありのままの気持ちを隠すことが出来ないで顔を合わせたもんだから、相手も何かを察した様子でこちらの顔色を伺っている。
再会早々こんなめんどくさい状態の女に出会ってこいつも気の毒だ。でも分かってほしい。もう限界なんだ。一瞬の内にショックな事が起こり過ぎて頭の中がパンクしている。きっとこれ以上何かあれば些細な事で気が狂う。

「何かあったの?」
「…………なんもねーよ」
「バレバレの嘘をつくのは見ないうちに上手くなったんだね…。ボクには、話したくない?」
「違うけど、たぶん、すげーめんどくさい事になるぞ」
「いいよ、別に。ボクも君に話したいことがあったから」

話したいこと?私にか。
……今のメンタルでまともな返答ができるか不安だけど、リゼルグはそんなの構わない雰囲気で困る。
こっちのおかしな様子の原因も聞きたげだし、仕方ない。話すしか無さそうだな。

「裏手の方にゆっくり話せそうな場所があるんだ。そこに行こうよ 」
「…分かった」

とても喋る気にはなれないけど、こうなってしまうと行かざるを得ない。
私が同意した途端にリゼルグはさっさと先に行ってしまったし。はぁ。もうどうにでもなれ。

少し歩くと、こじんまりとした広場がある。
周囲の建物は夜間だから灯りがひとつもなく、まるでここに来る道中の廃墟を連想させた。随分と閑静な場所。

「もう一度聞くよ。何があったの?」
「…………ハオに会った」
「…!!ハオに?!」
「だから言いたくなかったんだよ、お前だから余計に」

酷い言い方だが、リゼルグは1番奴に関連する事になるとこう…周りが見えなくなるのを短い旅の間で知っていたから、言いづらかったのは事実。
また、ボリスと戦った時のように暴走するんじゃないかとか、思ってしまう。

「…そっか。そうだよね。ボク、色々とやらかしちゃったから、それを心配して言いたくなかったんだんだよね」
「あぁ」
「でも、大丈夫。今はだいぶ落ち着いたから、リリカの話くらいなら聞けるよ」
「…………そっか」
「…ハオに何か変なことでも吹き込まれたの?」
「吹き込まれた、か。そうかもしれない。確証が無いけど、リゼルグが前にダウジングである人の居場所を探ってくれただろ。それも相まって、疑心が確信になりつつある」
「…お兄さんの事だね」

私は、なぜか肯定する声が出なくて静かに頷いた。
兄はやはり、ハオによって殺されたのだろうか。
私をコマにする為に、自身が執心する葉と戦わせる目的の為に、他にも方法があるってのにわざわざ私が1番ダメージを食らうやり方を、奴はしている可能性がある。

宿舎に帰る道中、混乱した中でひたすら不足した情報を繋げて結論に導こうとしていた。
リゼルグの示したダウジングの場所はこのアメリカだった。そしてハオの意味深なキーワード。
奴の背後に現れた持ち霊の腹は満たせなかったと言っていた。
普通の人間なら多分、察しは着くんじゃないだろうか。

兄さんは、あいつに殺されて食われた。そしてその残滓がリゼルグのダウジングに反応していたんじゃないのか?

ハオが今までどれだけの人間をコケにしてきたのかを知っているから尚更、アイツならやりかねないと思えるのだ。

「……まだ確たる証拠はねーけど、ハオは私の兄さんに何らかのアクションをかけた」
「…………」
「最悪の場合、殺されてるかもしれない」

その言葉がトリガーとなったのか、何も悲しくないのに、火がついたように視界が滲みだし絞るように涙が頬を伝う。

「あぁもう!!なんでだよ、訳わかんねぇよ、悲しくないのに」
「……多分、君はいっぱいいっぱいなんだよ」

グズグズと子供のように泣く自分が恥ずかしい。
年長者だし、大人なのに、自分よりずっと小さなやつの前で泣くなんて。その上変なフォローも入れられて。
今日も今日でクソッタレた日だな。
私のプライドも、目標の1つも全てボコボコに曲げられたゴミみたいな日だ。

「…ねぇ、リリカはX-LAWSについてどう思う?」

リゼルグの口から、予想外なワードが出てきた。
なんで今、よりにもよってその集団の名を出す?
ハオに恨みを持ってる集団だからか。
だとしても、何で今その話をするんだ。

「私は、あんま分かんねぇけど、なんでそいつらの名前をいま出すんだ」
「……ボク、X-LAWSのチームに入ろうって思ってる」

驚きで涙が引っ込んだ。
リゼルグが、X-LAWSに。
…返事が出てこない。なんと返答すべきか、正解が分からない。
ただただ黙って、きっと赤くなってる目で私はこの少年を見つめることしか出来なかった。