「な、こいつら全然大した事なかったろ」
「ああそうだな、ハオの手下も噂ほどじゃねぇ」
戦いの火蓋が切られたその時、待ってましたと言わんばかりに敵の坊主2人はチョコラブに襲いかかったが、余りにも練度が低い精霊を大量にぶつけただけの攻撃で、お世辞にも強いとは言い難い奇襲攻撃は失敗してしまった。
チョコラブも想像よりも規模の小さい威力に拍子抜けしている様子で、若干戸惑っている。
彼の右手にうっすらと巫力を纏いギラギラと光るメタリックな爪がかっこいい。
「な?!爪如きに…!」
「あれほどの精霊を消し去るなんて…ええい!」
「行くぜ相棒、次はリミックスで攻撃だ!!」
片手に持つ楽器は奴らの媒介らしい。弦を鳴らしては周囲に小さな霊を喚んでは大量に突撃させようとした。
が、二番煎じ、1度目も全く歯が立たなかった攻撃を再度食らわすのは完全に悪手だろ。
あーあーあ、こりゃ勝負は半分着いたな。あとはあのソンブレロを被ったメキシカン野郎がどう動くか。
あいつはさっきから全く何もしていない。手の内を見せていないからこそ1番に警戒すべきなんだろう。
「悪いけどさ、それじゃ全然意味無いと思うんだよ。オレのミックのスピードと鼻を舐めてもらっちゃ困るぜ」
押し寄せる神霊の大軍を具現化したミックが鋭い牙で噛み砕く。
チョコラブもこれ以上無駄な損害を出す気はないらしく、自身にO.Sを施し戦況を畳み掛ける。
大型の肉食動物のしなやかな動きをトレースした動きで相手を翻弄し、隙あらば苛烈な攻撃を加えほんの一瞬で敵の坊さん2人を再起不能にまで追い詰めた。
「…す、すげえ、チョコラブ!おまえめっちゃ強かったんだな!」
「当たり前だぜリリカ!オレは世界最強のコメディアン!!強くなきゃその名は名乗れねぇ」
「見ろよ、観客もチョコラブの能力にビビってやがる。こりゃ幸先いいスタートじゃねーのか?蓮」
「…どうだか。流石に最初奴の力を見た時は驚いたが、あいつは予定調和と言った具合の余裕ぶりだ」
そうだ、チョコラブの快進撃で忘れてた。相手は3人組のチーム、残った1人、深くかぶったソンブレロでよく顔は見えないがぼんやり見える口元が不敵そうに笑っている。
真打はこいつってことか。
奴は倒れ息するだけで精一杯の仲間に近づいたかと思えばなんと蹴り起こした。
死体蹴りとは冗談キツいぞ。仮にも仲間なんだからもう少し情のある態度が出来んのかヤッコさん。
「待ってくれ、ペヨーテ…」
「俺達はもう無理だ。悪いがこれ以上は……」
「関係ない、行け」
「お前らやめとけ。オレのミックが繰り出すシャフトはハンパじゃねえ。それ以上やったら本当に死ぬぞ」
「……なら殺せばいいじゃぁないか。君の相手はこいつらなんだから」
ペヨーテと呼ばれるソンブレロ野郎の言葉に絶句した。
なんて無慈悲さだ。こんなボロボロのチームメイトを酷使させるのは酷すぎる。
あの坊さん達も何かを察して、限界の体にムチ打ってチョコラブに向かってくるし…
お、おかしい。狂ってる。
ハオの手下共はボリスもそうだけど、道徳観とか、倫理が破綻した人間の集まりじゃないか。
…本当に救いがない。あいつら、色んなネジがぶっ飛んでる。
「倒れるな。ほうら、戦え!!」
立ち上がってはチョコラブに倒伏されることを何度繰り返しただろうか。
遂に自ら立ち上がる力もなくなり、2人は膝をつきその場にうずくまってしまった。
しかしあのメキシカンの鬼畜は攻撃の手を緩める事を許さない。
一喝すると忽ちまた立ち上がる。
いや、何か様子が変だ。もうあいつらには抵抗する気力も無いはずなのに、なぜこうも平然と立ってられるんだ!?
「……貴様も中々悪趣味だな。気を失った仲間の坊主を媒介に操るなんて」
「エレスコレクート!」
「え、エレス…??」
「英語ではExactly(その通りでございます)。まぁ、ざっくりと言うと君は正解だとスペイン語で言ったのだ。メキシコの公用語はスペインの言葉だからね。…フフ、さすがは葉様と互角に渡り合った男だけのことはある」
「フン、またも葉様、か。どうやら貴様らのボスは余程奴が気にかかるらしい」
「人には各々事情があるのだよ。それより私のからくりを見抜いた君達に尊敬をこめて紹介しよう」
背負った弦楽器を持ち直し、ポロポロと弾き出すと仲間に憑依していた奴の持ち霊が敵の背後に現れた。この男と同じような、メキシコの民族衣装を纏った幽霊が佇んでいる。
飄々としたペヨーテの語り口調がハナにつく。
何が尊敬だ、絶対そんなの思ってない癖によく言うよ。
「私の持霊、カルロスとジョアン…二人ともわたしの友人でね。メキシコでは1、2を争うマリアッチだった男達さ」