サンダルウッドの情念
17.埃っぽい噂話
地区大会が終わって次の月曜日、名字名前はいつものように体育倉庫で部活の備品を整理していた。すると背後から珍しい人物に声をかけられた。
「あの…!」
「?ああ、えっと。竜崎先生の…」
「はい、竜崎桜乃と言います!」
桜乃は自身の爪先を見つめ口もごんだ。名前が首を傾げると、意を決したように顔を上げる。
「リョーマくんの、怪我は、大丈夫ですか?!」
しばしば男テニの練習を見に現れる彼女は地区大会の応援にも来ていた。たぶんリョーマのファンなのだと思う。
真っ赤な顔をして眉を下げる年下の女の子を名前は微笑ましく思った。
「心配してくれてありがとう。でも本人に直接聞いてみたらどうかな。」
「でも、あの、…。」
今日の練習に使う道具をカゴにつめて立ち上がった。桜乃は目を泳がせている。気を違う子なのだろう、それでいて引っ込み思案だ。今だって名前の持つカゴをチラチラと見て、おそらく手伝いを申し出ようか迷っている様子で。
「そんなに気を遣わなくてもいいと思うよ。」
「え、っと…」
「リョーマも大丈夫。言いたいことは言ってあげてよ。それに、」
「名前居る?」
「!リョーマ君!」
ひょっこりと倉庫の中をリョーマが覗き込んだ。リョーマは右耳のあたりを手で押さえている。桜乃はリョーマの横顔を見て一層顔を赤くさせた。
「…珍しい組み合わせじゃん。」
「リョーマ。どうしたの?」
「眼帯のヒモが切れちゃって。新しいのある?」
「うん。部室にあるよ。行こっか。」
リョーマはほつれた部分を指でつまんでみせると名前は頷いた。
「サンキュ。…話はもういいの?」
「うん。桜乃ちゃん、リョーマ居るけどどうする…?」
「あ、う、その、」
リョーマは足を止めて振り返った。限界よろしく桜乃の額に汗が馴染んでいく。
「なに。」
「あの、リョーマ君!目、痛い?!!」
「声でか…」
「ご、ごめん!」
「…痛くない。」
「そう…!練習、頑張って!」
「ん。」
桜乃は長い三つ編みを揺らして首を縦に振った。
「貸して。」
リョーマが備品カゴを取り上げて倉庫を後にすると名前はその背中を追いかけてお礼を言った。二人の後ろ姿を見て、桜乃は心臓を飲み込んだ。
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