サンダルウッドの情念
5.いたずら心




4月。今日から学校生活が始まる。同時に部活を始めるので父親の寺の掃除や手伝いの頻度は減らす話になった。寺に行くと時々名前に会えたのでその機会が減るのは少しつまらないが(いやこれではまるで会いたくて会っているような言い方だが別にそういうわけではない。)聞くと彼女はこれから通う青春学園のテニス部マネージャーらしい。
そうでなくてもテニス部には入るつもりではいたが、名前にはまだ自分が青学に入学するとは伝えておらず、テニスコートで鉢合わせたときの彼女の反応がとても楽しみだった。(あくまで悪戯心として。)




つまらない入学式を終えてラケットバッグを背負った。さ、部活の時間だ。足早に教室を出ると同じクラスの堀尾というやつがついてきた。途中で会ったツンツン頭の二年に違う道を教えられるというハプニングがあったが、いや多分あれはわざとだ。しかし無事にテニスコートに辿り着くことができた。
着いたはいいけれど…

「今日は3年生とレギュラーの2年生が遠征でいないから仮入部は明日からだって。」

先にコートに到着していた他の一年がそう言った。
遠征ね…。おそらくマネージャーである名前もそちらに行っているのだろう。拍子抜けして頭を掻いた。

そのあとは卑怯な缶倒しゲームに巻き込まれたり、桃城と名乗る朗らかな、それでいて初対面でいきなり嘘をついてきた曲者の二年生に試合を申し込まれたり、まあそれなりに楽しかったので気が紛れた。



次の日からはレギュラー陣が部活に参加してだんだんと賑やかになってきた。無意識に目が名前を探す。コートを見渡しているとレギュラーと呼ばれるデザインの違うジャージを羽織った人たちがスマッシュ練習をしていた。軌道の逸れたロブがちょうどこちらに飛んできたのでレギュラー陣に倣ってスマッシュでカゴに打ち返してみる。シン、と空気が止まった。
そして。

「…え……?」

「案外簡単だね。」

ちょうどタオルを抱えた名前がコートに入ってきたのだった。

直後、知らない2年生に何故か胸ぐらを掴まれて難癖をつけられ、あとからやってきた部長だという眼鏡の男にグラウンド20周を命じられた。騒ぎを起こした罰、なのらしいが俺は口角が上がるのを抑えるのに必死だった。

名前は肩にかかる髪を今日はひとつにまとめていた。それがまたいつもと違くて新鮮で、正直とても可愛くて。

「俺悪くなくない?」
コートを出る際に小声で名前に話しかけた。名前は先程まで驚いた顔をしていたくせに今では涼しそうな顔をしている。
「…罰だよ、走ってきな。」
「なんもしてないのに。」
「……私に嘘ついた。」
「へへ。」

名前がそう小声で拗ねたように言ったので満足した俺は素直に走りに出かけた。そのポニーテールを引っ張ってやりたいと悪戯心を抱えながら。



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