セイラルの唄
大広間


父は私に残った彼女の魅了と、年々似てくる顔を見ているうちにノイローゼになってしまった。気が狂いそうだと叫びその日のうちに海辺の家から私一人を林の奥の小さな小屋に移して住まわせた。見かねたエラヴィスは好きだった海を離れ、森で私と暮らすことを選んでくれた。私の顔が母に似ているからだと思う。




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その日は大広間で朝食を取っていた。名前はスリザリンの長テーブルの端で、パンをちぎりながら黙々と食べていた。朝から生徒たちは元気で、今日は特にグリフィンドールのテーブルが騒がしい。昨日ホグズミードに初めて出掛けたのらしい三年生が思い出話に花を咲かせているのだ。

すると新しく集団が、スリザリンの三年生だろう、大広間に入ってきた。このグループもイタズラグッズがどうとかで盛り上がっていた。名前のテーブルにやってきてふざけたように言った。

「サキュバス、土産だ。食っていいぞ。」

差し出されたのは怪しげな包み紙の飴菓子だった。視線を外して食事に戻ると肩透かしを食らったように上級生は口を曲げて腕を組んだ。

「お前何を気取ってんだよ。聞いたぜお前。本当に“混血”なんだってな。どうせ碌でもない種族だろう。このスリザリンの恥晒しが。」

それは明らかに八つ当たりであって、酷い暴言だった。やりとりを見ていた生徒たちは顔を青くさせたが、名前は鬱陶しいとばかりにため息をついてパンを置いた。

「かの有名なヴォルデモートだって混血だったよ。それでもスリザリンの後継者だったよね。」
「そ、それは…、あの人は特別で……」

ヴォルデモートが消えてからしばらく経ち、彼の名は今や歴史の教科書の中だ。今も魔法使い至上主義の考えは根深くあるがその本質を感情論を抜きに説明できる者は学生にはそういないだろう。

上級生は口籠もり、行き場のない拳を震わせていた。それを無視し名前は食事を再開した。すると一際大きくグリフィンドールのテーブルから大きな歓声が起きた。陽気な人たち。気にせず咀嚼を続ければスリザリンの緑がかった制服が集まるテーブルに、違う色味の制服が一人現れ名前の隣に座った。リョーマだった。

「おい、グリフィンドールのテーブルは向こうだろう新入生!」

そのとき、ドカン!と大きな音が大広間に響いた。派手な花火が方々に弾けた音だった。出どころはグリフィンドールの集団からで、彼らは手元のイタズラグッズを誤って暴発させたらしい。寮生の朝食の盛り合わせを吹き飛ばしてしまったのだ。

「おやめなさいあなたたち!やむを得ません。グリフィンドール諸君は他の寮のテーブルで食事を済ませなさい。」

騒ぎを見ていた一人の先生が前に立って指示を出した。赤のポイントの入ったローブの生徒たちが各寮のテーブルに散らばった。リョーマもまたスリザリンのテーブルの朝食に手を伸ばした。

「…図ったようなタイミングで来たな君。」
「騒がしくて逃げてきたんだ。でもあんたのとこも酷いもんだね。」

これではリョーマを咎める口実を失い、また目の前の上級生はぶるぶると震えた。

「ねえセンパイ。用がないならどっか行ってくれない。気が散るんだけど。」
「わ、わざわざサキュバスの隣に座りやがって!お前だってそいつの魅了にやられてんだろ!」

名前は眉を寄せた。早く食べ切って立ち去ってしまいたいのに詰まらない話で腹が膨れてしまった。
少しだけリョーマがどう返すのか気になった。彼はこちらをちらりと見てすぐに視線を切り、口の端を上げて言った。

「そうかもね。」

周囲が一瞬静まり返った。上級生たちは唖然とし、今度こそ言葉を呑み込んで離れた席に乱暴に座った。

「君、曖昧な言い方をするね。ちゃんと否定した方がいいよ。」
「別に。どう思われても構わないからね。」

そう言うとリョーマは名前の持て余していたパンを取って口に運んだ。

「ただ、あんたあんまり一人にならない方がいいよ。」
「…覚えておく。」

遠くの席でまた花火が弾けて大きな音がなった。


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