セイラルの唄
魔法薬学


その後の授業は、魔法薬学だった。ヴィントラップ教授が「二人一組で」と呼びかけ、生徒たちは賑やかにパートナー探しを始めた。

「おいサキュバス、組んでやろうか?」とニヤニヤ笑って追いかけてくる連中を早足で撒いて、名前はリョーマの隣の席に座った。リョーマは特別驚いた顔をせず机の上の教材を寄せて名前の分のスペースを開けた。

「悪いね。まともに話ができるのは君だけなんだ。」
「別にいいよ。あんた一人でやると失敗しそうだし。」
「それは心外だな。」

期待した通り、リョーマは気にしない素振りで薬草を手に取り作業を始めた。そのさっぱりとした態度に名前は助けられていた。教科書に記載のレシピについて議論を交わすなどして滞りなく進む会話に、心地良さを感じていた。
なのに今度は隣の席のペアがこちらを見てコソコソ笑い、名前の気分はまた暗くなった。

「あいつが作るとなんでも惚れ薬になっちまいそうだ。」

名前は聞こえないふりをして黙々と薬草を刻んだ。しかしリョーマは何を思ったのか隣の席に聞こえる声で「幼稚な発想。」と呟いた。

「放っておいていいよ。」

名前は存ぜぬ顔を作り嗜めたがリョーマは歯切れ良く言い放った。

「知性を疑うね。」

陰口の生徒は真っ赤な顔で「偉そうなんだよお前!」などと負け惜しみを吠えた。リョーマは毛ほども気にしていないのだろう。クールなその目のまま名前が刻んだ薬草を鍋に放り込んだ。おや。名前は手元のレシピに視線を走らせた。

「待ってくれ。これはまだ潰していない。すり鉢の工程を飛ばしているよ。」
「確かに書いてあるね。」

リョーマは曖昧な、それでいて有無を言わせない態度でそう言って、やり直すでもなくそのまま作業を進めていく。越前リョーマの性格とは思いのほか適当なのかそれともこの場合は強情というのか、そういった一面もあるのだなと思ったがまあ、たかが実習。厳密に行う必要はないかと名前も倣って手を進めた。

しかし出来上がった魔法薬に教授は感激し、拍手までする始末だった。

「確かに歯触りが良くなり服用しやすくなるというメリットでこのすり鉢の工程が在る。しかしこの薬草の場合繊維を壊しすぎると酵素が出て効能を弱めてしまうといった面もあってね。火入れの前にナイフで十分に刻めていたからそれで十分だと君は判断したのだね。」
「…」
「臨機応変。いいね、学びの場とはこうあるべきだ。」

教授は機嫌良く鼻歌を嗜み次のペアの講評へと移っていった。名前は唖然としてリョーマを見たが、彼は肩をすくめるだけだった。

「運が良かったね。」
「…本当にね。」


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