セイラルの唄
クィディッチ


ホグワーツのメインイベント、クィディッチの試合日がやってきた。校庭のスタンドから生徒たちの声援が轟き、ビーターが棍棒で鉄製の球を弾き返す音が響いた。騒がしい場所は苦手だ。名前は観戦には行かず、休講中の静かな校内を歩いていた。

エラヴィスが肩に止まり、鋭い爪が食い込んだ。

「もういいの?もう少し飛んできたら。」

エラヴィスは鋭い目でこちらを見たが動く気配はない。名前は仕方なくそのまま歩き続けた。すると、噴水が高く噴き出る中庭でリョーマを見かけた。彼は足元にカルピンを連れていた。

「君、本当にチームを辞退したんだね。応援には行かないの? 」
「あんただって暇そうにしてる。」
「うるさいよりずっといいよ。」

遠くで一際大きな歓声が響いた。エラヴィスはその音に驚いたのか、大きな両翼を広げて飛んでいった。

「スタジアムには行くなよ。」

乱れた髪を抑えながら声をかけたが彼は高く飛んでいく。まあ、いいか。

「あいつスニッチ捕まえちゃうんじゃない。」
「言うなよ。私も嫌な予感はしてるんだ。」

二人は軽い冗談を交わしながら静かな校内を歩いた。足に擦り寄るカルピンを抱き上げ、リョーマはぽつりと言った。

「…クィディッチ、観るのも退屈なんだ。すぐそこにいるのに肝心の選手がなかなかスニッチを見つけなくてね。」
「…それは普通じゃないね。」
「そう。普通じゃないんだよ。」

リョーマはさっぱりと笑った。名前は面食らって思わず足を止めた。リョーマは勘がいい。その所以を名前は追究したことはなかった。いつも普通だ偶然だと言い張るので、言いたくないのだと思っていた。しかしそのような言い方をするとは。

言葉を探し立ち止まった名前を見透かすように、リョーマは振り返って目を細めた。

「別に隠してないよ。あんたにはね。」

琥珀色の瞳が陽の光に透けて煌めいた。切れ長の長いまつ毛がふいと閉じては名前を見据えた。

「“直感”。色々分かる。でもそれだけ。」
「…直感?」
「勘がいいってこと。」
「それは…」

名前はその先を聞こうか迷って口籠った。名前の魅了にも由来がある。じゃあリョーマは。
“隠してないよ”そう言ったリョーマの言葉に、どういうわけか胸が苦しくなった。名前は出かかった言葉を飲み込んで笑い飛ばして見せた。

「君は秘密主義なんだと思っていたよ。」
「あんたは聞かないからね。」

聞けばきっとリョーマは教えてくれる。
でもだからこそ、リョーマの口から聞きたい。




いく先も決めず歩き続けると大広間にたどり着いた。普段は生徒で溢れる長テーブルが今は静かに並んでいる。リョーマは長椅子の端に腰掛け、カルピンを肩から下ろした。カルピンは背中を伸ばし器用に足で耳の後ろを掻いた。

名前は通路を挟んで隣にある長椅子に腰を下ろした。人のいない大広間は静かで空が透ける魔法の天井には秋晴れが広がっていた。名前は長椅子に仰向けに寝そべってみた。リョーマは呆れたように言った。

「随分と無防備だね。」

雲がゆっくりと流れて見え隠れする太陽が眩しかった。指先を陽にかざして静かに言った。

「君とは何も起こらないだろ。」

リョーマは一瞬黙り、じとりと目を向けた。名前は揶揄うように続けた。

「キスでもしてみる?」

その言葉にリョーマは口の端を上げ、同じように寝転び目を閉じた。

「カルピンが見てるからなあ。」
「猫に負けた。」

名前は渇いたように笑った。リョーマも小さく笑った。カルピンが彼の膝に飛び乗った。高い天井に二人の声がよく響いた。

「…こんなふうに」
「?」
「海に浮かんで空を見たことがある。」

唐突に名前はそう言った。それだけ。なんとなく思い出しただけだ。背に海、上に空。浸かった耳には母の歌が聞こえて、あの日々が好きだった。それだけのことを、ただ思い出しただけ。

「そう。」
リョーマは短く返すと眩しそうに空を見上げた。




遠くでクィディッチの声援が響く中、二人は何でもない話を続けた。エラヴィスが大きな翼を広げ大広間に入ってきた。気付いて名前が上体を起こせば得意げにその肩に停まり羽を畳んだ。
やっぱり君は何でも分かるんだね。

「…返してこい。」
エラヴィスの嘴の間から見える金色の球に苦笑いし、名前は腕を上げて送り出した。




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