セイラルの唄
おとぎ話


リョーマが生まれたのは、魔法界の辺境にある古い屋敷だった。

生家には不思議な書物がたくさんあった。言葉が古く小難しい。父親は「あんなものは出鱈目だ」とばかり言っていた。母親に“これ”は何?と古い本の一節を指差せど、彼女は「おとぎ話よ」と目を泳がせるのだった。

おとぎ話といえば妖精が腰に鈴をつけて雪の中を舞い踊るような、美しい童話の情景が目に浮かぶが、そういう意味ではないらしい。母の言うおとぎ話とはどちらかと言えば、ほら話、といった意味の方が近いと感じた。隠そうとしている、いや、見ないふりをしている。これは触れてはいけないものだということは幼いながらに何となく分かっていた。

6歳になってすぐの頃だった。
リョーマの中で妙な感覚が生まれていた。母の探し物を容易く見つけ、父の出先の天気を言い当て、マグルの交通事故を未然に防ぎ、近所の火事を予言した。──“直感”の発現だった。

両親は魔法使いだったので、こういうことも起こるものかとリョーマは特別気に留めていなかった。でもどうやらそうではないらしい。ある種、野生的ともとれる本能的な直感という力に周りはいい顔をしなかった。

何故両親はこれを隠したのか。
「この力が異質だから?」そう尋ねたらそれもどうやら違うらしい。

「存在しない」そう語られてきた。

血は確かに流れている。それなのに彼らが文献から姿を消したように、その痕跡は一族の誰にも現れない。ただの魔法使いである、ということ。それがその直系である父方の家系の代々が囚われてきた問題だった。だから「存在しない」ことにして、自身のただの魔法使いであるというどうしようもない事実を肯定しようとしたのだった。

しかしリョーマにはその兆候が発現した。
両親は喜んだ。親戚中喜んだ。でも。何故お前がという妬み、嘘をついているのではないかという言い掛かり、現れた能力がごく一部でしかないことに対する蔑み。一族の長年拗らせたそれに対する認知が幼いリョーマを苦しめた。

だから結局は「存在しない」のである。文献から姿を消した。今ではただの補助的な名詞とまで堕ちた過去のそれ。信じて欲しいわけではない。認めて欲しいわけでもない。褒めて欲しかったわけでもない。確かに自分のものではない。ただそれが自分である、というだけなのである。リョーマは以来誰にも言わず、例え人に悟られそうになっても「偶然だよ」と濁して生きてきた。


名字名前。
異種族の血を引きその特性が色濃く出る女の子。彼女を放っておけなかったのは、助けたかったのは、ただそれだけのことだ。




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