Chapter9 〜流転〜





十二番隊兼技術開発局に足を踏み入れた私は、此方に気付いた途端頭を下げる死神達に微苦笑する。

この隊でこんな風に敬われるような事をした覚えは無いのだけれど。

と、首を傾げながら、恐らく隊主室なのだろう、研究室の扉を叩く。


「マユリさん。ちょっと話…「私は君に話など無いヨ。私は忙しいんだ。今すぐ帰り給えヨ」


「え〜、ならバウントがこっちに来ちゃったの、貴方が滅却師に肩入れしたからだって、バラしちゃうよ?」


「言い掛かりは止め給えヨ。私はそんな事…「へぇ?シラを切るんだ?」


軽く霊圧に殺気を混ぜて、扉の向こうへと飛ばすと。

がしゃんと何かが割れる音がして、が鳴り声がした後、扉が開いた。


「ありがと、ネムさん」


「いえ…」


「ネム!喋ってるんじゃ無いよ!それをさっさと片付けな!」


「はい、マユリ様」


涅はいつも以上に不機嫌らしい。


「…で、何の用だネ」


そう問いを投げる声も、ひしひしと面倒な事は言うんじゃないよと、暗に圧が掛けられている。


「バウントセンサー、作ったよね?実験体にしたくて此処に呼び込んだなら、彼等の特殊な霊圧を探知する物だって作らない筈ないよね?」


「な、何を…」


動揺を見せる涅に、くすと笑う。


「別に悪いようにはしないよ。それのデータ解析させてくれたら、すぐ帰るし」


「複製する気かネ」


「…今私、バウントの霊子データ持ってるんだけど」


そう告げると、涅がピクリと反応を示した。


「この私に、取引を迫るつもりかネ」


「違うよ?私が持つ霊子データを組み込んで、マユリさんが作った物だって各隊に配布してあげる。そうすれば、少なくとも悪いようには取られないでしょ?」


「そんな事をすれば私が実験体を手に入れられる確率が下がるではないかネ!」


「どうして私が、貴方の実験体回収に付き合わなきゃならないの」


霊圧に微かに殺気を混ぜると、涅が一歩下がった。

黒い化粧で覆われた顔は、しかし確かに恐怖に引きつっていて。


「早くしないと此処でしてる実験、時間回帰させちゃうよ?」


にっこりと笑顔で脅すと、涅は折れた。


「ネム。あれを持って来な」


「はい、マユリ様」


従順な副官が持ってきたそれは、掌に収まる程の小さな機械。

縛道の掴趾追雀を連想させる格子の模様と、数字が描かれていた。

私は其処にバウントから読み取った霊子データを読み込ませて、同じ物を幾つか創造する。


「はい、これもちゃんと動作する様になってるはずだよ。バウント全員の位置データが、ね」


涅は手に戻ってきたセンサーを見て、複雑な表情を浮かべていた。


「早くしないと、他の死神達に倒されちゃうよ?」


私のその言葉とほぼ同時に。

精霊壁をこじ開けられたとの警報が技術開発局に鳴り響いた。


「ふん、礼など言わないヨ」


「いいよ?本当だったら此処に来なくたって同じ物創れたんだけど、折角局長さんが作った物を無駄にするのも可哀想かなぁなんて思った本心は心の中に秘めといてあげる」


「一々腹の立つ小娘だネ!私に喧嘩を売るとどうなるか、思い知らせてやろうかネ?!」


弄りがいのある涅の反応を楽しんでいる私が居る。

どうやら私にも加虐心と言うものは存在するみたいだった。


「やってみる?此処で?研究成果、消し飛ばしちゃうの?」


出来る限り悪魔的に、くすと笑うとぴしりと青筋が浮かぶ黒い化粧の不気味な顔。


「己の所業、良く覚えておくが良いヨ。瀞霊廷に居る以上、私に歯向かって只で済むと思わない事だネ」


低く唸る様な声は、涅の最大の威嚇なのだろう。

それでも斬魄刀を抜かない所を見ると、彼も正面からでは勝てない事を理解しているようで。


「そう?わかった。でも、私に毒は効かないよ?」


もう一つ笑みを零して、私は彼に背を向けた。

何事も無かったかのように其処を出て行くと、周りの研究員が酷く驚いた顔をしていたけれど。

手の中にあるバウントセンサーをさっさと配ってしまう為、私は足早に其処を後にした。


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