Chapter10 〜予兆〜

桃に急かされた冬獅郎は瞬歩で駆けつけたそこの惨状を見て、目を見開いた。
少し遅れて着いた白哉も、粒子と化したその場所を厳しい目で見つめている。
瞬間、途方も無い殺気を感じて、二人は大きく飛び退る。
そこには、漆黒の羽を背に此方を見下ろしている玲がいた。
「なんだよ、これ」
琥珀の瞳は濁り、焦点が合っていない。
会話すら、望めそうに無い彼女の状態に、冬獅郎は悪態を吐いた。
「恐らく、月読だろう。玲は月読は眠っていると言っていた。それが起きてしまったのではないか」
「お前、冷静だな…」
現状を見ても、眉一つ動かさない白哉に、冬獅郎は溜息を吐く。
「不思議には思っていた。彼奴が何故、私達に力を求めるのか。自分が暴走した時、それを止めて欲しいと思っていたのならば、辻褄も合おう」
「…此奴を止めれば元に戻るんだな?」
「恐らくは、な」
彼等の会話も聞こえては居ないのか、彼女は指先に黒い光を灯す。
それが徐々に集束し、甲高い音を立てて二人に向けられた。
「黒い、虚閃?!」
「相手は破壊の斬魄刀。その程度の物である筈がない」
「けど、避けたら後ろ壊滅だぞ?!」
彼等の背後には死神達が働く隊舎。
避けられよう筈もない。
「仕方ない。卍解。千本桜景厳」
「卍解。大紅蓮氷輪丸」
斬魄刀を抜き、卍解の解号を唱えながら、霊圧封印率をゼロに下げる。
二人は、受け止めるつもりだった。
けれど、玲が突然苦しみ出し、黒い閃光は方向を変え、空へ上がって雲を、そして青空を消し飛ばす。
それが通った軌跡は黒く澱んではっきりと視認出来た。
「チッこの女、破壊閃一発まともに打てる霊力残しちゃいねぇ」
「てめぇ!玲じゃねぇな!彼奴に何しやがった!」
「はっ!此奴の心の乱れが大きくなったお陰で俺が出て来れたまで。まぁ、暴れんのは無理そうだがな」
「ならば戻れ。貴様は斬魄刀であろう」
「馬鹿言うなよ。俺は破壊の神。本来刀の形なんかとっちゃいねぇさ!」
彼等が霊圧をぶつけ合う中。
玲は精神体となって、肥大した月読の力を内側から読み取っていた。
「神だと?なら玲はなんだってんだ!」
「この女か?此奴は創造神と破壊神を宿す依り代。本来意思なんてねぇ唯の世界の欠片だ。それにてめぇらが心を与えたお陰で、俺は世界の意思を無視して此処に出て来れた。だから感謝してるぜ?てめぇらにはな!」
「成る程。彼奴が一人で寝るのを怖がるのはそういう事か」
「…俺らが心を与えたから、側に居ねぇと心が消えちまう、か」
四神封印。
精神世界でそれが発動し、水の龍、風の虎、火の鳥、土の亀が鎖となって彼女の身体を縛り付ける。
「チッ時間切れか…」
鎖に縛られた月読が諦めたように目を閉じる。
そうすれば、鎖は玲の身体に沈み込み、月読を精神世界に縛り付けた。
「は…、はぁ…、っー」
「玲、か」
「だな」
霊圧だけで彼女が戻ったと判断し、卍解を解いて霊圧を抑える二人。
彼等はもう既に瀞霊廷中の死神が一部を除いてほぼ全員昏倒している事など知らない。
呼吸の整わない玲に白哉が膝を着いて手を貸すと、異様に熱い体温に気付く。
「熱か。天照は、まだ目覚めておらぬのか?」
小さく首を振る玲に、ならば何故と考え込むも。
「さっきの封印の反動だろ?バウントの時もあれ使って倒れたんだな」
一度見た事のある冬獅郎が、呆れながら確認する。
こくりと頷く玲をそうか、と撫でて、氷輪丸を鞘に戻す。
「朽木。玲頼む。俺は報告に…」
「大、丈夫。前方破損箇所修復及び廷内全ての魂魄の意識を賦活せよ。”天女の施”」
「あ、馬鹿やろ」
「無茶をする」
今更止められないことは分かっているのか、虹色の光が広がってゆく様を溜息と共に見遣る二人。
玲は案の定意識を失い、眠りに落ちた。
深い、眠りに。
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