Chapter12 〜葛藤〜






「ふ、ぁ…んっ」


舌を絡め取られ、舐め上げられて。

身体がぞくりと震えて、声が漏れる。

口の端から伝う唾液を彼の舌が舐め取って。

つっと伝い降りて行く彼を止める事は今の私には出来なくて。


「っーびゃく、やっ」


熱い吐息に身体を震わせて彼を呼ぶ。

ぎゅっと目を閉じると、ふわりと優しく髪を撫でられた。


「怖いか」


「っ…」


本当は今すぐ逃げ出したい。

敏感になった感覚に翻弄されて、自分が分からなくなる。

でもそれは、さっき心に決めた事を、覆すほどの物じゃなくて。

首を振ると、引き寄せられて抱き締められた。


「無理せずとも良い」


耳許で囁く声は穏やかだった。

さっきまでの苦し気な声じゃなくなっていて、少しほっとする。


「私が欲しいのは身体ではない」


合わされた黒曜の瞳は凪いでいて。

私の方が苦しくなる。


どうしてこんなに胸が軋むのだろう。

世界の拒絶が無くなっても、結局変わる事を許されない立場を思い知らされただけで。

傍に居たい。

只それだけの事も言えない違いに、苦しむ事になるなんて。


幾ら境界を取り払っても、共にある事なんて出来はしない事は、分かってたつもりだったのに。

胸が酷く苦しい。

それは私の心が叫ぶ我儘。

彼等が居なければ意味が無いと叫ぶ、この心の弱さなんだ。


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