Chapter2 〜天賦〜





そっと長椅子から立ち上がり、副隊長の執務机に移動して。

目を丸くしている乱菊を尻目に、凄い勢いで書類を片していく。

多分演算能力とか、情報処理能力とか、普通のレベルじゃないんだろう。

ぱらぱらと書類をめくれば、内容は全て頭に入るし、筆を動かせば即座に模範解答が記される。

そんな感じで終わった書類を積み上げ続け、最後の一枚をちょっと背伸びして山の天辺に乗せた時。


漸く落ち着いた雛森さんと冬獅郎が此方に気付いた。


「よし、終了。乱菊、出来た書類各隊に配るぐらいやってよね?」


「あ…ええ、勿論よ!」


勢いよく頷いた乱菊は、山の様な書類を抱えて隊主室を出ていった。

机の上には墨と硯と筆だけ。

うん、やっぱりこうじゃないとね。

なんて自己満足していると、雛森さんがきらきらと目を輝かせて此方を見ていた。


「瑞稀さん…天才ですか?!」


「え?天才は冬獅郎でしょ?」


「違います!どうして四半刻もしないうちにあれだけの書類を片付けられるんですか?!」


此処で、素直に情報処理能力が凄まじいからなんて答えられないことに気付く。


「…あ…ちょっと得意なだけだよ」


曖昧に濁した言葉に、雛森さんは不服そうに口を閉じる。


「ちょっと得意って…私なんてあの量一日掛かっても…」


そう言えば、五番隊って今隊長居ないんだっけ。

なんだか、凄く落ち込んでいる彼女を見兼ねて、口を挟む。


「あの…暇ができたら、手伝いに行きましょうか?」


「本当?!」


「あ、うん。冬獅郎か白哉に同伴頼むかもしれないけど」


まだ、見張りは解けていないため、勝手な約束は出来ないかとちらりと冬獅郎に視線を送ると。


「俺がついてる時に行けばいいだろ」


あっさりと許可が出た。


「わぁ…有り難う、日番谷君!隊長が居なくなってから処理に困る書類沢山あって…」


そこで一瞬暗くなった雛森だったが、すぐに笑顔を取り戻し、此方に向き直る。


「瑞稀さん!私のことは桃でいいからね!敬語も無しにしよう?」


「あ、うん。じゃあ私は玲って呼んでね」


「わかった!じゃあ玲、日番谷君、私戻るね!また!」


慌ただしく去っていった桃を見送り、ふぅっと息を吐く。


「元気だね」


「空元気だろうがな」


あぁそうか。

あの子は自隊の隊長が大好きで。

まだ、ちゃんと現実を受け入れられてはいないんだ。

そういった事を、無機質な情報として知っている事が少し嫌になって。


「冬獅郎の分も片付けちゃおっか」


少し無理に笑顔を作った。


「…お前は少し優し過ぎるんじゃないか?」


何と無く書類の事を言っているんじゃないとは分かっているけれど。


「面倒な事は得意な人間に任せればいいんじゃない?」


敢えて気付かないふりをして。

優しすぎるのは冬獅郎も一緒だよと、心の中で言い返しておいた。


暫くすると乱菊が息を切らして戻ってきて。

また抱き着かれたので、少し呼吸を整えさせて。

お茶を淹れて手渡すと、嬉しそうな笑顔をくれて。


冬獅郎の仕事も少し手を貸して終わらせた頃。

ふと、白哉の言っていたことを思い出した。


「そう言えば、冬獅郎。白哉が明日買い物連れてってくれるって」


「…仕事は?」


「お休みするって言ってたよ」


「…そうか」


それ以降、黙ってしまった冬獅郎に首を傾げて。

乱菊に視線を送ると手招きされた。


「隊長の前で他の男の話はしちゃダメよ」


「どうして?」


「嫉妬しちゃうんだから」


「嫉妬…?」


理解出来ない単語に首を傾げていると、後ろから手が伸びてきて、冬獅郎に捕まえられた。


「松本。余計なこと吹き込むな」


「余計じゃないですよ。隊長が不機嫌になるから…」


「隠される方が嫌だろ」


「…それもそうですね」


そんな会話を首を傾げながら聞いていると、何処からか、定時終了の鐘が鳴る。


「偶には飯でも食いに行くか」


「隊長の奢りですか?!」


「今日だけだぞ」


「やったぁ!」


はしゃいでいる乱菊は、私の状況が見えていないらしい。

お腹に腕を回されたまま、抱えられているのは少し苦しいのだけど。


「…冬獅郎」


「あぁ、悪い」


名前を呼んだだけで降ろしてくれた冬獅郎に少し恨みがましい視線を送る。


「苦しいんだからね」


「…もうしねぇよ」


「じゃあ許す」


自分がやった事ながら、彼の身長を伸ばしたことを軽く後悔する私。

これで何度目だったか、しれない。

そのまま町の料亭に連れて行ってもらって、美味しい食事を奢ってもらった。

普段は冬獅郎は自炊してるらしい。

意外すぎて笑ったら怒られた。

その後、隊舎に戻ってきて、部屋に案内される。

必需品は既に揃っていて、買わなきゃいけないのは着替えと消耗品くらいだった。


「じゃあな」


そう言って、冬獅郎が部屋を出て行くと、私はそこに一人になった。

ここ二日、常に誰かと居たからか、寂しさへの耐性が脆くなっている気がする。

心がどうしようもなく空虚なのは、どうすれば凌げるんだっけ。

一人に部屋を見て回りながら、そんな事を考える。

備え付けのシャワーを浴びて、浴衣に着替えて、けれどどうしても思い付かず。

ベッドに横になっても、全く眠くはならなくて。

霊圧を探ると、すぐ近くに冬獅郎の部屋がある。

結局寂しさに負けた私は、浴衣に着替えてから、冬獅郎の部屋へ向かった。



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