Chapter12 〜葛藤〜

滝が流れ落ちる音に耳を傾ける。
その滝壺から少し離れた湖面に足を浸して遊びながら、ゆっくりと目を閉じる。
過去、藍染惣右介の関わった全ての事象の、詳細な情報を。
今までは脳の許容量が限定されていたせいで、その間にあった感情の動きや小さな出来事は記憶出来なかったけれど。
制限が無くなった今の私なら。
全てを識り、動く事が出来るから。
流れ込む情報。
絶望、執念、無念、悲哀、恐怖。
これ程の人の負の感情を、ただ一人で生み出す男。
―そうか。こういう繋がりだったんだ。
現世の、彼等は。
藍染に付いている彼も…
その想いの強さ故に、全てを捨ててまで貫き通そうとしているんだ。
乱菊の欠けた魂魄…か。
違和感はあった。
乱菊と修兵の、霊圧制御率の低さに。
副隊長に認められる程の力を持っているのに。
あれ程潜在能力が抑えられていたのは。
魂魄が欠損したが故の、自己防衛本能…。
「…玲、か?何してるんだ、こんなとこで」
木陰から顔を出したのは、顔に三本の爪痕のような傷を持つ男。
今丁度思考していた、欠如した魂魄。
「修兵。コントロール、出来てる?」
ふと、微笑んで問うと、罰の悪そうな顔をして目を逸らす。
「…気分転換に、散歩してたのによ…」
「駄目なんでしょ?」
「…数字、朽木や阿散井にまで追い越されてな。鬼道は自信あったつもりだったんだが…」
ふぅっと溜息を吐く檜佐木修兵。
幼い頃、藍染が仕組んだ虚化の実験に巻き込まれた人。
そして、その時出会った過去九番隊隊長、六車拳西に憧れて、死神を目指した元少年。
「貴方の魂魄は欠如してる。治せば大分、違うはずだけど」
「欠如…だと?」
「貴方がその顔の刺青に憧れたあの日。捕まった虚に削られた物」
そう告げると、彼の目が見開かれる。
その瞳が映すのは動揺と、畏怖。
そうだ。
人の心はこんなにも簡単に揺れ動くモノなんだ。
「知ってるはずよ。私はこの世に起こった事象全ての情報を記録として取得出来る。それが過去でも、同じ事」
余り、見たくない。
自分に畏怖する目は…今はまだ。
「…そう、か。考えてなかった訳じゃないんだが…何とも妙な気分になるもんだな」
目を開くと、困った様な表情の彼が居て。
その目に動揺はもう無かった。
「…貴方達は…強いね」
「俺、お前に塞で封じられた事忘れちゃいねぇんだが」
「私が言ってるのは心の方。自分の感情をコントロールして、相手まで気遣える、心の強さだよ」
ふと笑みが浮かぶ。
私の心は弱くて脆い。
傷付くのを恐れて、相手を拒絶しそうになる程に。
強過ぎる力を持ったが故の反動か。
それとも、生きた年月の違いだろうか。
「お前は最初からそれを隠してた訳じゃない。それでも動揺した俺の心が強いのか?」
彼は怪訝そうな顔をする。
それでも何処か、自棄になってた感情が…少し、落ち着いた気がした。
「修兵。おいで」
「…俺は犬かよ」
手招きすると、呆れながらも側に来る彼の胸に手を当てる。
「治すよ?」
「あぁ」
大人しく目を閉じる彼に少し笑って。
虹色の光を手に宿す。
欠けた場所を同調させた霊力で探り当てて、少しずつ、修復する。
治し終えると、何故か彼の顔の傷まで消えていた。
「…なんか、霊力が馴染むな」
不思議そうに手を握ったり開いたりしている彼に、鏡を創って手渡す。
「顔の傷まで、消えちゃったけど」
顔が映る様に翳して見せると、ずんと沈みこむ彼に目を瞬かせる。
「まずかった?」
「いや…良いんだけどよ…」
まだ沈み気味の彼に、乱菊を呼んできて欲しいと頼む。
すると、鷹揚に頷いて来た道を戻る修兵に、確かに犬っぽいなと笑みが溢れた。
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