Chapter14 〜仮初〜

日番谷と別れた後、特にする事もなく、現世の街を歩いていた私は、玲の霊圧が戻ったのを感じて視線を空へ向けた。
瞬間、背に掛かる重みと、首に回される腕。
「ただいま」
耳元で囁かれる馴染んだ声と、穏やかな霊圧。
「…玲。目立っている」
「うん、ごめんね?」
素直に背から降りる此奴の謝罪は、恐らく戻らなかった事へだろう。
「構わぬ。だが、今日は付き合ってもらうぞ」
そう告げると、花が咲いた様に微笑む玲。
その霊圧がかなり磨耗している事に気付いたが、今は聞かない事にした。
「良いよ。何処行く?」
楽しそうに歩く玲は、すっかり現世の服装で。
裾の短いワンピースが翻る度、周囲の男の視線が其処へ集う事が酷く不快にさせる。
「先ずは着替えろ」
徐に玲の手を掴み、近くの洋服店へ足を向ける。
「…似合わない?」
しゅんと肩を落とす玲に、首を振る。
「周りの視線が不快なのだ」
告げれば、彼女は周りを見渡して首を傾げる。
が、素早く視線を外す奴等に、本人が気付いた様子は無さそうだった。
軽く買い物をして、玲の服装を何とか短パンとやらに落ち着け、ストールを巻かせて、主張気味の胸元を隠させる。
紅葉はまだ先だが、少し肌寒い今の季節に薄手の首巻きは丁度いい。
「白哉に洋服のセンスがあるの、ちょっと意外」
ショーウィンドウに映る自分の服装を確認し、少し失礼な事を呟く玲。
しかし、和服しか存在しない尸魂界で、洋服センスを磨けと言うのも無理が有る。
実際の所、彼女が長期滞在に行くと決まった頃から、雑誌と呼ばれる読み物が、自室に増えたのは誰にも言うまい。
かく言う自分の服装は、白のワイシャツとやらに黒いジーンズパンツと呼ばれるものだが。
始め少し窮屈な気がしたものの、袴よりはずっと動きやすいかもしれない。
「白哉も似合ってるよ。でも、首元に色欲しいかも」
そんな事を呟いて、何かを探す様にきょろきょろと店を物色する玲に口元が緩む。
見つけたのか、するりと店へ入っていく華奢な後ろ姿を追って、店に入ろうとすると、周りを派手な女達に囲まれた。
「きゃああ!お兄さん、何処かのモデルさんですか?!」
「うわぁ!そこらのアイドルより全然イケメン!一緒に写撮ってください!」
香水とやらのキツい匂いが鼻に突いて、眉を潜める。
現世の人間が使う横文字の言葉は少し嗜んでは来たものの、何を言っているのか、全くもって分からない。
「退け。邪魔だ」
「やん、冷たいとこも似合うから許せる!」
「あ、ズルい、私も」
話の通じない煩わしさにずきりとこめかみが痛むが、此処で殺気を放つと目立つ。
かと言って、退けるためにこんな奴等に触れる事などしたくはない。
そこへ、耳に馴染んだ凛とした声が落ちた。
「白哉。見てこのネクタイ可愛いでしょ?」
値札の外された、包装されていないそれをふわりと私の首に巻いて、微笑む彼女。
取り巻いていた女共は、玲の雰囲気に飲まれたか、声一つ上げない。
その間に緩く結んだネクタイに満足気に笑って、手を引く玲。
「あ、あんた!その人と付き合ってるの!?」
硬直を解けたと同時に張り上げられた煩わしい声に、玲は妖しく微笑んで
「そうだよ」
肯定した。
その場を交わすための嘘だとは分かってはいたが、それが彼女の口から出た言葉だと信じられない自分が居て。
嬉しい反面、何処か悲しい様な妙な気分に囚われた。
「白哉、照れてないで行くよ?」
さらりとそんな事を言う玲は然し、何処か恥ずかしそうで。
追求はしない方が良いのだろうと判断して、頷きだけを返した。
「何処へ行くのだ」
「ん〜、遊園地、行ってみたい」
無邪気にはしゃぐ姿が曇るのを恐れた自分を少し恨みながら。
それでも今の距離が暖かく感じて。
どうにも急く気になれない私は、いつからこんなにも臆病になったのだろうか。
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