Chapter16 〜虚圏〜





同刻。

ルキアは、アーロニーロと名乗る十刃と対峙していた。

彼の顔は過去虚と同化し、自らが刺し抜いた副官そのもの。

けれど。


「今此処に来てる全員の仲間の首を取ってきたら、過去の事は洗いざらい綺麗さっぱり水に流してやるよ」


その言動は、嘗ての海燕とは似ても似つかぬ物だった。


「海燕殿を馬鹿にするな!」


激昂したルキアの霊圧が上がる。

爆発的に。


アーロニーロはたじろいだ。

“知っている筈”のルキアの霊圧とはあまりにも違う事に。


「何だ、お前は?!朽木がこんな、霊圧を…「持っている訳がない、か?」」


顔を上げたルキアの表情は、怒り一色に彩られ。

それに恐怖を覚えたアーロニーロが刀剣解放する。


「喰い尽くせ、”喰虚”(グロトネリア)!」


海燕の身体の下に、巨大な醜い塊が現れ、蛸のように蠢く。


「十刃の刀剣解放を凡百の破面と同じだと思うな!俺は喰らった相手の能力を全て同時に扱える!俺の喰らった虚の数は3万3650。此処からの戦いは、三万を超える虚の軍勢と一人で戦うに等しいと思え!」


去勢か、解放した優越感か。

海燕の姿を模した十刃が叫ぶ。

しかし、幾ら姿を似せようとも、幾ら同じ力が使えようとも。

其処に彼の心は無い。

分かっていた筈だ。

海燕は死んだ。
自分が刺し抜いた。

そして、心を、預けてもらったのだ。


「卍解」


玲が付けてくれた卍解の修行で会得出来たのは自分だけ。

けれど、皆強くなった。

心も、身体も、全て。


「白霞罸」


発動と同時に、触れる物全てが絶対零度へと変わる。

自身の姿も、白い着物と髪飾りが形作られ、刀から凄まじい冷気が周囲に満ちる。

この卍解を維持できる時間は、そう長くない。

絶対零度下での活動可能時間は四秒。

しかし、それでも十分だ。

触れるまでもなく、醜悪な触手が凍って行く様を見て、斬魄刀を構える。


「斬るのか?!この俺を!海燕の記憶と、身体を持つこの俺を斬れるのか?!」


「斬る。貴様は只の虚だ」


白霞罸を受け止めた槍が、凍って行く。

それを持っている、十刃も直ぐに絶対零度の氷結領域と成り。

氷の像となって、間もなく、砕け散った。


息が、荒い。

やはりこの力は、体力を使い過ぎる。

少しずつ、絶対零度まで下がった体温を戻さなければならないのに。

意識が、霞む。


―海燕殿。
私は、救えたでしょうか。
虚の手に落ちた貴方を。
見て頂けたでしょうか。
強くなった、私を。


宮の壁に背を預けたルキアは、急激な眠気と倦怠感に抗いもせず、すっと目を閉じた。



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