Chapter16 〜虚圏〜

一方、同じく刀剣解放した十刃と相対していた恋次はと言うと。
毒々しい紫色の液体から分かれた自身の分身体に囲まれて、四苦八苦していた。
「クソ!何だってんだよ!」
唯一朗報は、部屋にあった力を制限する仕掛けが解除された事か。
それすら、自分の分身体を相手にさせられてはそう意味が無い。
上がった霊圧も、何もかもコピーされているのだから、苦戦するのも当然だ。
卍解しても今の状態では何の意味も無い。
その時、一つの大きな霊圧が、壁をぶち破って現れた。
「よう、苦戦してるみたいだな」
戦況を瞬時に把握し、床から壁面、敵に至るまで全てを氷で覆ったその青年は、とんと恋次の隣に降り立つ。
「日番谷隊長!何でこんなとこに…」
「玲を、探しにきたんだがな。こっちに着いても、霊圧の欠片も感じねえ。仕方なく、お前らに手貸して暴れてりゃ、そのうちひょっこり出てくるんじゃねぇかと思ってな」
「撒き餌っすか?!その言い方は酷いっスよ!」
「煩ぇ。わざわざ面倒臭そうなやつに加勢しに来てやったんだ。感謝されこそすれ、非難される覚えはねぇ」
「そりゃそっスけど…」
斬魄刀も抜いていないのに自身の分身をガチガチに凍らされては、自尊心に傷も負う。
悄然と項垂れた恋次は、冬獅郎が刀を抜くのを見て、思い出した様に告げる。
「あ、日番谷隊長。此処で戦うのはまずいっス。能力読み取られて、部屋に閉じ込められちまう。せめて外に出ないと…「分かった」」
静かに頷いた冬獅郎は、解放した氷輪丸の氷の龍で、宮の壁を破壊する。
決して的確とは言えない説明で、粗方敵の能力を理解したらしい冬獅郎に、恋次はまたも項垂れる。
「酷いね。僕の宮をこんなにしてくれちゃって。愛染様に何て言ったものか」
瓦礫と化したその場所で、ザエルアポロの目付きが変わる。
「不愉快だよ。見せてあげよう。この邪淫妃(フォルニカラス)の本当の力をね」
何か来ると察知し、飛び退った冬獅郎とは違い、避け損ねた恋次が、伸びてきた蔓のような背中の羽に捕まった。
「阿散井!」
窒息させるかのように閉じ込めたと思ったら、存外直ぐに吐き出された恋次に駆け寄る。
「ご馳走様」
息を乱しながらも外傷は無い彼にっとするのも束の間、戻った翼の羽根の部分が膨らんで弾け、小さな人形がザエルアポロの手に落ちる。
「ご苦労様、阿散井君。今を持って君の阿散井君としての役目は終わった。これからは彼が阿散井君だ」
「何を…」
にやりと笑ったザエルアポロのが、手元の人形の額を弾く。
瞬間、恋次の額が割れて血が噴き出し、後ろに倒れた。
「阿散井!」
冬獅郎が叫ぶも、彼自身何が起こったか分かっていない表情だ。
「今の説明は上手くなかったかも知れない。簡単に言えば、これは君の五感を支配するコントローラーだ。更に」
自分の能力を自慢げに説明するザエルアポロが、人形の頭と胴体を外したのを見て、嫌な予感がしたらしい冬獅郎は、氷輪丸を振るう。
「呑気にてめぇの茶番に付き合うかよ!」
圧倒的な冷気で周囲を凍らせ、ザエルアポロに迫る氷の龍は、その後ろから現れた巨大な二体の破面によって止められた。
「残念だったね。鑑賞会は、強制だよ」
「ッチ」
そうする間に、人形の中に入っているパーツをかき混ぜ始める。
「ほら、見えるかい。カラフルで綺麗だろう?子供のおもちゃみたいでさぁ。こいつがこの人形の楽しいところでね。まぁ君らのような馬鹿には見せたほうが早い」
そう呟いて、ザエルアポロにが一つのパーツを手に取った。
「胃袋か」
独り言ち、それを長い爪で砕くザエルアポロ。
瞬間、阿散井が大量の胃液を吐いて崩れ落ちた。
その一連の流れで、敵の能力がどれだけ厄介か理解した冬獅郎は、瞬歩でザエルアポロの手中から、恋次を模した人形のを奪い取る。
「おや、流石は隊長格と言ったところだね。目で追えなかったよ。でも…それは一度しか作れない訳じゃない」
「そうか。てめぇがお喋りで助かったぜ」
奪い取った人形の頭を身体にくっ付け、阿散井の方へと投げる。
受け取ったのを確認するや、冬獅郎は彼の周囲に鏡門を張った。
「おや、それは結界かい?随分と仲間思いな隊長さんだ」
「違ぇよ。邪魔だから戦線離脱させただけだ。俺の力は、範囲が広くてな」
「ほう、さっきの氷の龍のことかい?確かに殺傷能力は高いようだが、そう範囲が広い様にも見えなかったけれどね」
「…言ってろ。卍解、大紅蓮氷輪丸」
霊圧が急激に上昇し、周囲全てをを凍てつかせる。
冬獅郎の背に氷の翼が形作られ、首元や手足も氷で覆われる。
即座に攻撃しようと、赤い翼を伸ばしたザエルアポロは、触れるまでもなく凍らされ、砕かれたそれに目を見開いた。
「馬鹿正直に受けると思うか?」
すっと冬獅郎が刀を前へと突き出す。
瞬間、ザエルアポロの周囲に無数の氷の柱が生成される。
「何だ、これは…クソ!」
ザエルアポロが脱出しようとするも、それよりも早く冬獅郎の持つ氷輪丸が鍵を掛けるようにかちりと横に捻られた。
瞬間、高速回転しながら、ザエルアポロを閉じ込め、圧し潰す氷の柱。
以前は閉じ込め、その冷気で命を奪う千年氷牢だったが、今は即殺の技に変わっていた。
断末魔を上げながら、全身を氷に覆われ、砕け散るザエルアポロ。
それが粒子に変わるのを見遣ってから、冬獅郎は恋次に掛けた鏡門を解いた。
「すげぇ…」
「馬鹿野郎。何のために修行したんだよ」
呆れたように呟いて、恋次の側へ歩いて行く冬獅郎。
「大丈夫か」
「まぁ何とか…」
「そうか。なら、玲探して来る。治せるの、彼奴しかいねぇだろ。暫くそこで寝てろ」
「…日番谷隊長」
「何だ」
「有難う御座いました」
「…気にすんな」
ふっと小さく笑みを浮かべて。
冬獅郎は瞬歩でその場から消えた。
その頃、同じ宮に居た石田はと言うと。
急に崩れた瓦礫の山から必死に抜けだそうともがいていたと言う。
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