Chapter4 〜華奢〜

「むぅ…」
降ろしてやらなかったのが不満だったのか、それともそこが気に入ったのか。
俺に腕を回して首元に頭を埋める玲を出来るだけ視界に入れない様にしながら、自分の理性が切れない様に、瞬歩で駆ける。
「涼し…」
途中そんな事を呟いた玲の吐息が首元を掠めただけで、ぞくっと身体が反応した事に、驚いて足を踏み外しそうになったのは焦った。
どうにか隊舎に辿り着き、玲を部屋に押し込もうと試みるも
「やだぁ…とーしろっ…」
泣き出さんばかりの表情に凍り付いて敢えなく断念。
結局自室に連れてきてしまった自分の意思の弱さに溜息を吐く。
取り敢えず横になれば落ち着くかと、ベッドに降ろそうとするが
「…一緒に寝よ?」
潤んだ瞳で見上げられ、どうにか理性を繋ぎ止めるために目を閉じた。
「取り敢えず、水でも飲め。持って来てやるから」
「むぅ…あ、お風呂」
「…頼むから一人で入れよ?」
「…や」
妙に聞き分けの悪い玲に、再び溜息。
なんだこれは。
新手の拷問か。
こんなんで理性持つ奴いんのか。
いっその事少し脅せば離れるか?
口付けしたって首傾げてるような此奴が、意味を理解出来るはずもねぇ。
なら、少し警戒させれば…そう思って。
「襲われてぇのか」
低い声で囁いた。
けれど玲は瞳を暗くするだけ。
「とーしろ、怒ったの?」
しゅんとして回していた腕を外した所をみると、効果はあったようだが。
こんな風に勘違いしたままでは意味がない。
華奢な腕を掴んで引き寄せて、敢えて荒く深い口付けをした。
「ふ…んんっ…やっ」
ごぅっと玲の霊圧が上がって、俺との間で弾ける。
反動で少し開いた距離。
つっと涙を溢した瞳は、困惑と恐怖で揺れていた。
「…意味、分かったろ。さっさと部屋戻れよ」
琥珀の瞳に初めて映る警戒の色に、ずきりと痛む心に蓋をして。
出来る限り冷たく突き放せば、見開かれた瞳から涙が溢れた。
「と、しろ…」
「怖いんだろ。震えてるぜ」
かたかたと震える身体を自分の腕で抱き締めて、涙を溢す玲は、しかしそれすら綺麗で、俺の欲を煽る。
頼むから、さっきので懲りて部屋に戻ってくれと願う反面、泣いている此奴に謝って、慰めたくなる俺がいる。
そんな事をすればさっきの行動の意味が無くなるから、どうにか感情を抑え込んで。
「…まだ懲りねぇか?」
怯えて逃げ出すか、拒絶して鬼道でも放つか。
そんな行動を予測しながらも、もう此奴は前の様に笑ってくれないだろうな、と軋む心はどうにもならなくて。
「…っいいもん」
震えながら溢した言葉は、拒絶でも、言霊でも無かった。
「は?」
一瞬思考が止まって、間抜けな声が漏れる。
「っー…酷いこと、されてもいい…一人になる方が…怖いもん…」
震える声が紡ぐ言葉は俺の行動よりも、孤独への恐怖で。
なにがそこまで此奴を怖がらせるのか、理解してはやれない。
が、震えながら、それでも出て行こうとしない玲に、俺の方が折れてしまった。
近付いてそっと手を伸ばすと、びくりと身体を震わせながらも逃げようとはしない此奴を、これ以上傷付けることも、突き放すことも出来そうに無かったんだ。
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