Chapter1 〜欠片〜

「…で、書類は?」
粗方話を納得した冬獅郎は、執務机に視線を向ける。
「え?片付けたよ。それより、冬獅郎。ちょっと霊圧抑えてる術解くから、自分でもコントロールして?」
「は?片付けたって…てめ、捨てたとかじゃねぇよな?」
余計な心配をする彼にどんな外道だとくすりと笑って。
「ちゃんと読んで返事書いて、たまたま通りかかった人に運んでもらったから大丈夫。ほら、解くよ?」
人差し指を向けて急かすも、銀髪の彼はいまいち意味を理解してないようで。
「いや、解くって…っ?!」
百聞は一見に如かず。
と言うことで、問答無用で術を解いた。
途端に何倍にも跳ね上がる霊圧。
言葉も出ない程に制御に必死になる冬獅郎。
額から冷や汗が流れ、表情は苦悶に歪む。
やっぱり、自力で制御出来るレベルじゃ無かったかな、と少し他に手を考え出した時。
コツを掴んだのか、徐々に霊圧が下がっていって。
それでも元の霊圧までには抑えきれないのか、前の二倍ぐらいの霊圧でどうにか安定した。
「は、…っはぁ…っ…てめぇ…」
突然術を解いた事に怒りを露わにする冬獅郎。
それでもまだ辛そうだった。
私は彼に気付かれないように、斬魄刀の能力で霊力半減の制御装置を創造し、手渡す。
「それ付けると、前と同じぐらいまで霊圧抑えられるよ。因みに卍解する時は絶対外してね」
「こんなもん何処で…」
「後でね」
訝しむように眉を寄せる彼の腕に、腕輪を付けると、すっと霊圧が下がる。
同時に、顔色も良くなったので、懐から手拭いをだして額の汗を拭いてみる。
近付いたら顔を背けられたけど。
それにしても。
「身長伸びたねぇ」
さっきはちょっと私の方が高かったのに。
もう背伸びしないと顔に手が届かない。
なんだろう。
ちょっと悔しい。
「…複雑だな」
言葉通り、冬獅郎は複雑な表情をしていた。
嬉しいけど、面倒臭い。
多分、そんな顔。
「ふふ。これで冬獅郎も私と一緒だからね?」
「…何がだよ」
「力、隠さなきゃいけなくなったでしょ?」
「…口止め料って言うより、脅しじゃねぇか」
溜息と共に溢れるのはそんな言葉。
でも、私は強制しているわけじゃない。
「そんなことないよ?もし、冬獅郎が全部皆にばらして、私がやったって言っちゃえば、隠す必要無いでしょ?」
「…んなことしたら、お前他の死神共に追い回されるぞ」
それは極普通の反応で。
手っ取り早く強くなれる方法があるなんて知ったら、喰いつかない訳がない。
今の彼の霊圧の上がり方を見るに、誰だって努力してるのが馬鹿らしくなるだろう。
「そうなったら恨むね」
笑顔で告げると、冬獅郎は呆れたように目を閉じる。
「…結局選択肢ねぇじゃねぇか」
「そうかな?」
「…言霊一言も発さずに六十番台の縛道使えるような奴を誰が好き好んで敵に回すんだ」
どうやら軽く根に持ってるらしい。
そう言えば隊長格の人達でも番号と術名は言うんだっけ。
「あは。今度から気をつける」
「そういう意味じゃねぇ」
なんか冬獅郎、溜息ばっかり吐いてる。
これからの展開が予想できて憂鬱なのかな。
そういえば、結界解いてなかった。
思い出して、ぱちんと指を鳴らすと、紗蘭と結界が消える。
「…あぁ、そりゃそうだな」
消えた結界の方へ視線を投げて、当然かと頷いてる冬獅郎。
其処へ、バタバタと近付いてくる足音が一つ。
霊圧で其れが誰なのかを察知してしまった冬獅郎は、また溜息を吐いた。
「あ、私が持ってた薬飲んだら大きくなったとか言っとく?」
「…霊圧は隠せてるからな。それしかねぇか」
頷き合った私と冬獅郎は、瞬歩で移動した。
私は長椅子。
冬獅郎は執務机に。
それと同時に執務室の扉が開く。
「すみません、隊長!寝坊しまし…た…って隊長?!!」
駆け込んできた凄く綺麗な女の人が、冬獅郎を見るなり目を見開いた。
「…てめぇ、松本。今寝坊したって言ったか?」
冬獅郎のこめかみがぴくぴくしてる。
けど、金髪の美女は華麗にスルー。
「ええ?!どうして?!銀髪と翡翠の瞳、確かに隊長なんだけど、大きくなって…ますよね?」
「うるせぇよ。ちょっと色々あったんだ。それより…「きゃああああ!超絶美青年!また隊長のファンが増える!私、用事思い出したので、ちょっと失礼します!!」
「あ、待て!松本!!」
冬獅郎の制止の声は届かず、松本と呼ばれたお姉さんはあっという間に瞬歩で消えた。
「えっと…説明、要らなかったね」
「…あの野郎…!」
俯いて肩を震わせている彼の怒気が凄まじかったので、とりあえずお茶でも淹れようと立ち上がる。
部屋に入ってきたと同時に流れ込んできた情報を基に、隣部屋にある台所でお茶を淹れて茶菓子も盆に乗せる。
「冬獅郎。甘いもの食べよ」
丁度あったお団子を指して、笑みを見せると、盛大に溜息を吐いた彼はどうにか怒りを納めて、正面の長椅子に移動した。
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