Chapter7 〜奇蹟〜

玲をベッドに寝かせた冬獅郎は、心中に渦巻く黒い感情に溜息を吐いた。
白哉がした事が、当然の処置なのは頭では理解している。
然し、彼女を想う心が、付いていかない。
人を想う心がこんなに制御の利かないものだと、最近になって初めて知った。
嫉妬というものがこんなにも醜い感情だという事も、今までは知り得なかった。
けれど、それを教えてくれた目の前の少女は、自分よりもずっと、この感情から遠い人。
世界の一部であるが故に、感情の特定すら許されない、人であって人で無い、それでも周囲を明るく照らす、強い心を持つ少女。
いっそ知らないままでいたかったと思う反面、彼女の存在を否定する事などとうに諦めている事も自覚していて。
「玲…」
感情の捌け口を探す様に、名を呟けば。
「…とう、しろ?」
琥珀の瞳が薄く開いて。
どうしようもなく安堵した。
「馬鹿野朗。死ぬ気か」
「…白哉が気付いてくれなかったら…消えてたかも」
くすと笑う玲には、自分を省みる様子は無い。
それに苛立って眉を顰めると、気付いた玲が苦笑した。
「さっき、白哉が気付いて止めなかったら…私あの人を殺してたかもしれないの」
「だから、そんな風に笑うのか」
自分を蔑む様な、何かを諦めたような、そんな笑い方。
普段は見せない、痛みを伴う感情。
「化け物って、更木さんが言ってたね」
「彼奴の言葉なんて気にするだけ無駄だぞ」
「ううん、その通りだなって思って」
ふと、腕を動かそうとして、上手く力が入らない事に気付いた彼女は、すっと目を閉じた。
「…俺はそうは思わねぇ」
「冬獅郎が優しいから、でしょ」
諦めたような口調に胸が痛んで、彼女の顔の側に手を付いた。
「試してみるか?お前が俺を殺すか否か」
「馬鹿、なの?」
見上げる瞳が恐怖に揺れている。
前回とは違う、人を殺してしまうかもしれない恐怖に。
「まだ動けねぇんだろ」
霊力の同調は余程コントロールが上手く無いと出来はしない。
白哉とて下手では無い。
けれど、半分の霊力を削っても、玲に戻った霊力はほんの僅か。
冬獅郎はそこに付け込んだ。
霊力が殆ど無く、身体も思うように動かせない玲に。
「や、だ。冬獅郎…!」
「本当に嫌なら吸い殺せばいい」
そんな言葉を告げて。
彼女の唇を塞いだ。
霊力を同調させて、玲へ注ぐ。
コントロールし切れずに発露している霊力を気にも止めずに。
拒絶を示していた玲の霊力が、諦めたように応え始める。
すっと首に回された腕と、絡められた舌に驚いている間も無く。
言いようの無い虚脱感が身体を襲って、全身に力を入れた。
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