黒曜の気紛れ




吐血した後、ぐったりと力の抜けた瑞稀を抱き上げ、四番隊へ足を向ける。

自分の身体よりも私の隊服の心配をする様なこの娘は、決して弱くは無い。

実力だけならば、副官にすらなり得る力を持っている。

そんな彼女が此処まで負傷しているのは、恐らく、騒ぎにしたく無い等の綺麗事の所為か。

もう少し霊圧を上げれば、此処まで傷は負わなかった筈。

そして、霊圧が上がれば近くの隊長格達が気付いた筈だ。

それすらしなかったのは、煩わせたく無い等此奴の口癖故か。

此奴を気に掛ける隊長格は、誰も迷惑だなどと思いはしないと言うのに。

足早に救護詰所へと入れば、隊員達が目を見開いて固まる。

其奴らを無視し、卯ノ花の霊圧を辿って部屋へと入った。


「あらあら、今度はかなり酷そうですね」


何も言わずとも察した様子の卯ノ花は、此奴の怪我を良く見ているのだろうか。

直ぐに寝台へ寝かせると、卯ノ花が救護処置を始めた。


「朽木隊長」


「何だ」


「瑞稀さんは、優し過ぎます。護れないのなら、下手に近付かない方が彼女の為ですよ」


それは私だけで無く、他の隊長格達にも向けられた言葉だったのだろう。

然し僅かに…心の臓が痛んだのは気のせいか。

その後卯ノ花に締め出され、思ったよりも酷かったのか面会謝絶の札が掛かり。

私の中に沸々と湧き上がったのは瑞稀を傷付けた者達への怒り。

踵を返し、先に記憶した女共の顔を頭の中で所属書類と照らし合わせる。

名前までも記憶している自分の記憶能力に感謝しながら、各隊の隊長に話を通した。

卯ノ花が言っていた言葉も添えて。

恐らく今回瑞稀に手を上げた者は謹慎処分位にはなるだろう。

然し、首謀者があれだけとも限らない。

思い返してみれば瑞稀玲は、かなり頻繁に顔色を悪くしていたのだから。

一人、自隊に所属していた哀れな女死神には拘留処分を下し、私は焼き付いて離れない哀しげな紫紺色に心の中で蓋をした。




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